配線アレンジの第一歩はストラトキャスターから。完成度が高く、さまざまなジャンルで使用できるギターですが、さらに音色のバリエーションがあると可能性はもっと広がります。ここで紹介するのは、通常の5段階スイッチに加え、2音色のトーンを得られる“レインボー・トーン”と呼ばれる配線。レバー・スイッチで選択したピックアップにフロント・ピックアップを足すという簡単なカスタマイズなのですが、オリジナル配線では出せないフロント&リアのハーフ・トーンや、3ピックアップすべてをオンにという操作がワンアクションでできます。スイッチ・ポットを使用すれば外見もまったく変わりませんし、現状復帰も簡単です。さあ、あなたも挑戦してみましょう!
- 作業の難易度
★★☆☆☆ - 用意する部品
スイッチ・ポット 、ワイヤー - 想定所用時間
30~60分 - 用意する工具
ドライバー各種、モンキーレ ンチ、ハンダゴテ、ハンダ・ スタンド、ハンダ、ハンダ吸 い取り線、ニッパー、ピンセッ ト、ラジオペンチ
01 ピックガードをギターから分離し作業開始
最初にドライバーでピックガードのネジを外す。線を切ってしまったり、部品でボディに傷を付けないようにピックガードをそっと裏返す。上図は、ピックガードにマウントされているノーマル・ストラトキャスターの配線である。まずは、ジャックの+とー、弦アースの3ヵ所の線のハンダを外しギターと分離。ギター本体は普段掃除できないところを丁寧に磨いてから安全なところへ待避させる。
どこのメーカーでも同じように配線されているわけではないので、のちに問題が起こった時のために、すべての配線を克明にメモするか、写真に残しておく。
レバー・スイッチはいろいろなタイプがあるので、図とは異なる可能性がある。今回はフェンダーUSAを始め、多くのメーカーで採用されているCRL社製、またはオーク社製のスイッチに基づいて作図している。また、部品とピックガードの間に薄い金属板が挟まれていたり、ピックガードの裏側に金属箔が貼られているか、ピックガードそのものが金属製の場合、3つのポット間にある黒いリード線(アースをつなぐためのもの)がないギターもあるので覚えておこう。
02 センターのトーンを外す
スイッチ・ポットと交換するため、ハンダゴテを使ってセンター用のトーンにつながっているリード線とコンデンサの足を外していく。センター用トーンの位置にスイッチ・ポットを配するのは、ピッキングやスイッチ操作の際に誤作動しないように、できるだけ遠くに設置したかったため。逆に頻繁にこのスイッチ・ポットを使用する場合は、一番近くにあるボリュームと交換してもいい。または、ガリが出るなど実用的な問題のあるポットと交換してもいいだろう。
端子→アース→コンデンサの足の順で外すと作業しやすい。
03 スイッチ・ポットに交換
トーン・ポットから外したリード線を図3のとおりスイッチ・ポットにハンダ付けする。ストラトキャスターの純正ノブの多くは上部が細くなった形なのでプッシュ/プル・スタイルのスイッチでは、汗ばんだりしているとすべって操作しにくいことがある。ノブを違う形状に交換してもいいが、一般的にはプッシュ/プッシュ・スタイルを選択すべきであろう。
コンデンサ→アース→端子の順でハンダ付けすると作業しやすい。
04 スイッチ部の配線
ON/ONスイッチは縦の3端子が一組の回路を成し、それが二組入っている。C=common(=共通の意)の端子がスイッチ操作によりAかBの端子と触れることで機能する。今回はスイッチで選択したピックアップに、フロントPUを足すというカスタマイズなので、フロントPUが配されているレバー・スイッチの端子にリード線を加え、その末端をCの端子にハンダ付けする(図4、図5)。さらに、レバー・スイッチのcommonからAの端子にリード線をつなぐ。スイッチによっては端子の動きが逆になるものもあるので 事前にテスターでチェックしよう。
05 7色トーン配線の完成
基本的に 図1と同じ配線に、黄色で表記した線が今回の改造点である(図5)。意外と簡単な作業であることがわかるだろう。これまで数百回もこの改造を施したが、追加されたサウンドがあまりにも魅力的で、その後はノーマルでは使用しないというプレイヤーも大勢いた。
また、トーンをマスターに変更して(レバー・スイッチのcommon端子からフロント用トーンの中央端子に線をつなぐ)、センター・トーンのポットを外し、そこへ ON / ONのミニ・スイッチを付ける(スイッチ部分は同じ配線)という応用もある。ライブ時は暗いためスイッチ・ポットではONなのかOFFなのかを視認しにくい欠点がある。しかし、ミニ・スイッチを使用すれば、手探りでレバーの倒れた方向を確認できるというメリットがあるのだ。
06 スイッチ操作と出力されるPUポジション
これで配線は終了。ハンダ作業に手慣れた人なら30分もあればすべて終わるだろう。簡単な改造だが、得られるサウンドは劇的に変わり、費用対効果は大きい。
フロントとリアのミックス・トーンを使えば、テレキャスターの音色に近づく。フロントとセンターのミックス・トーンよりも音の輪郭がハッキリし、強めに歪ませた音でブルースを演奏する時などに効果を発揮する。3ピックアップをONにしたサウンドは、ワイドレンジで深みのある独特のサウンドが得られるだろう。
ただし、このアレンジのように選択したピックアップにフロントPUを足すという方法を採ると、スイッチ・オン時にはリア単体の音色が得られなくなることは覚えておこう(図6中段参照)。もちろんスイッチをオフにすればノーマル配線に戻るので、その時はリア単体の音も問題なく出せる。同じ作業をリアPUで実践してもよい。そうすれば基本的には同じ効果を得られるが、その際はフロントPUの単体で出力できなくなってしまう。フロントPUを単体で使用することが多いプレイヤーならこのページの手順どおりに配線するといいだろう。
配線の変更点は、レバー・スイッチに追加するリード線を、フロントの端子につなぐか?もしくはリア端子につなぐか?という単純明快な違いだけである。どちらの端子にも届く長さでリード線をつなげておけば、あとで簡単に変更できる。
ポジション1はレバーをヘッド側に倒した時。ポジション5はボディ・エンド側に倒した時。プレイヤー目線で認識できるように表記してある。紫色がcommon端子で、ここからボリュームに出力される。赤で示した端子はcommonとつながっていることを意味する。すなわち、そのポジションのピックアップの信号がボリュームに出力されていることになる。
「ストラトキャスターのレインボー・トーン」の配線方法を動画でご紹介!
実演しているのは著者の西村秀昭さん。その熟練のハンダゴテさばきにもご注目あれ!
▼ストラトキャスターの配線アレンジ レインボー・トーン Part1
▼ストラトキャスターの配線アレンジ レインボー・トーン Part2
今回紹介したこの配線アレンジを含め、ストラトキャスターやテレキャスター、レスポールの「定番」配線アレンジ14パターンを詳しい写真で分かりやすく解説しているのが、この「欲しかった音が出る!エレキ・ギター配線アレンジの本」
配線アレンジに必要となる基本的な知識も詳しく解説しているので、初心者でも大丈夫!
ハンダゴテを持って、望みの音を手に入れよう!
CONTENTS
■Part.1 配線アレンジに必要な知識とテクニック
◎1.エレキ・ギターにおける電気回路の基本概念
- 回路の仕組み
◎2.回路を構成するパーツ
- ピックアップ
- ボリューム・ポットとトーン・ポット
- 特殊なポット
- ジャック
- レバー・スイッチ
- トグル・スイッチ
- 多様なスイッチ類
- コンデンサ
- 配線に使用するケーブル
◎3.配線作業に使用する代表的な工具類
◎4.配線作業の基本テクニック
- リード線の下処理
- ボリューム・ポット化
- ノブの外し方、はめ方
- ハムバッカーのメタル・カバーを外す、付ける
- ピックアップの位相反転とケーブルの4芯化
- ピックアップの位相チェックの方法
- 作業時の典型的な失敗例から学ぶ対策
■Part.2 ギター別 使える配線アレンジ
◎ストラトキャスター編
- 魅惑のレインボー・トーン
- センター・ブレンダー
- シリーズ・ミックス
- フェイズ・アウト・ミックス
- 3ボリューム・ミキサー
◎テレキャスター編
- 2ボリューム・ミキサー
- シリーズ・ミックス
- フェイズ・アウト・ミックス
◎レス・ポール編
- 2ピックアップのブレンド
- ブレンダー+マスター・ボリューム
- ステレオ・アウト
- ハムバッカーのリード線を4芯化
- パラレル、フェイズ・アウト、コイル・タップ
◎ポール・リード・スミス編
- ロータリー・スイッチをトグル・スイッチに