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2017.08.25

ロックンロールの大定番『ロール・オーヴァー・ベートーヴェン』の意味を歌詞から紐解く!|『意味も知らずにロックンロールを歌うな!?』より

Text by 小出 斉

ベートーヴェンをぶっ飛ばして、今日もリズム&ブルースを楽しもう!

 チャック・ベリーが遺したロックンロール・スタンダードを歌詞の方面から紹介する『意味も知らずにロックンロールを歌うな!?』。もちろん、音楽の楽しみ方は人それぞれで、意味を知らずに曲を聴いたりコピーしてもいいのですが、それだけではまだお楽しみは半分なのかもしれません。あのジョン・レノンがチャック・ベリーの歌詞を賞賛したのには、やはり大きな理由があったのです。本書で取り上げた全25曲の中から、ビートルズもカバーした「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」を特別に掲載!

イラスト:ダニー(ザ50回転ズ)

楽曲の世界観を表わすイラストは必見。なんとこのイラストを描いているのは、チャックの大ファンを公言しているザ50回転ズのダニー!

 「ベートーヴェンをぶっ飛ばせ」の邦題で知られるこの曲。〈ロール・オーヴァー〉は、辞書的には〈転がる〉、〈転がす〉、〈寝返りを打つ〉。しかし、ロック・ファンにとったら、もう〈ぶっ飛ばす〉以外の訳語は考えられない。「ベートーヴェンを転がせ」ったって、あーた、ダイスじゃないんだから。転がすは転がすでも、上手をつかんで豪快に土俵上に叩きつけて、背中に土をべったりつけるくらいの力技でなければなりません。とにかく見事な訳だが、チャックの初めての日本盤LP『ロックの王者! チャック・ベリーのすべて』(ビクター=64年発売)では、普通に「ロール・オーバー・ベートーベン」という片仮名表記だった。おそらくビートルズ・バージョンで広まった邦題と思われる。
 1956年、4枚目のシングルとして発売され、R&Bチャートは2位、ポップ・チャートでも29位のヒット。ロックンロールに眉をひそめる良識派の大人のみなさんの神経を逆なでする題材で、それだけに快哉を叫んだティーネイジャーたちの顔が目に浮かぶ。

 少年時代、ブギ・ウギ・ピアノを練習したくて仕方なかったチャックの前に立ちはだかっていたのが、姉のルーシー。近所ではマリアン・アンダースン(黒人のクラシック歌手)と呼ばれるような才能の持ち主だった。彼女のクラシック・ピアノの練習は無条件で認められていて、チャックがブギ・ウギを弾くには、彼女の練習のわずかな隙を見つけなければならなかった。チャックの自伝によると、子供の頃、姉にピアノを独占されていた悔しさを歌ったとのことで、"巨匠ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンではなくルーシーに文句を言いたかったのだ"と語っている。無論、クラシック音楽をロックンロールとは対極の音楽として認識していたのは間違いなく、世の中の"権威"を代表する音楽として、ぶっ飛ばしてしまったのだが。
 ちなみに、イントロは「ジョニー・B.グッド」に繋がるもので、同系統のものでは最初に登場した。また、バック全体のビートは跳ねているが、チャックがイーヴンの8ビート・ボトム・リフを弾いた、最初の曲という点でも重要な1曲と言えるだろう。

著者による意訳(?)も掲載。直訳ではなくチャック・ベリーのメロディ/テンポを意識して訳しているので、実際に楽曲を聴きながら読み進めるのがオススメです

 とにかく侮れないフレーズの連発である。2番の〈My heart's beatin' rhythm and my soul keeps singin' the blues〉は、縮めれば見事に〈rhythm and blues〉に。この曲から生まれた曲もあれば(別項参照)、 "俺のブルー・スウェード・シューズ踏むなよ"と、ヒットしたばかりのカール・パーキンスの曲を引用したりもする。締めの、"彼女が〈dime〉を持っている間は音楽が止むことなし"とは、コインをジューク・ボックスに入れ続けるからですね。わかるわあ。
 さて、この曲でポイントなのが、〈Reel and rock〉という英語フレーズ。〈リール〉は釣竿の糸巻きからくるくる回るイメージだろうか? スコットランドの伝統的ダンスの一種でも、リールというのがある。リール・アンド・ロックという組み合わせは、かねてよりブルースで使われているものだ(例:From then on till Monday morning, the whole joints begin to reel and rock=それから月曜の朝まで、酒場中が大騒ぎに/ルーズヴェルト・サイクス「West Helena Blues」より)。ビッグ・ジョー・ターナーの曲からもヒントを得ているとのことだが、チャック自身もこのフレーズを発展させて、「リーリン・アンド・ロッキン」(「意味も知らずにロックンロールを歌うな!?」のP37を参照)を録音している。

原詩にはコード譜を掲載しているので、歌本としても使えます。さらに、歌詞に出てくる英語フレーズの意味もバッチリ紹介。意外と難しい単語がたくさん出てくるので、とても勉強になります。


オリジナルが聴けるアルバム

『Rock, Rock, Rock』(1956年作品)

 おそらく史上初の"ロック映画"と言うべき、『Rock, Rock, Rock』。ドゥワップ・バラードなども多く使われていたが、その中で最も強烈にロックを体現していたのが、チャックだった。映画では1曲のみ(「ユー・キャント・キャッチ・ミー」)だったが、このオムニバス・アルバムでは「ユー・キャント~」の他に「サーティ・デイズ」「メイビリーン」そしてこの「ロール・オーヴァー・ベートーベン」の計4曲を収録して、ロック時代のトレンドセッターとしての姿を強烈にアピールした。


聴き比べてみたいお薦めカバー作品

『ウィズ・ザ・ビートルズ』(1963年作品)
◎ビートルズ

 やはりこの曲の存在を広めたのは、ビートルズの功績。ライブではほかにもチャックの曲をガンガン演奏していたが、スタジオで録音したのは「ロックン・ロール・ミュージック」と「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」だけだった。あくまで直線的な原曲に比べ、ドン・ドドンというバスドラのアクセントが効いたワイルドなドライブ感があり、かつ9、10小節目を4度→5度のコード進行でポップな感じを出したのもワザあり。

おもなカバー・アーティスト/作品の一覧


◎エレクトリック・ライト・オーケストラ / ELO 2(1973)
◎ザ・スパイダース / Rock'n'Roll Renaissance(1970)
◎ザ・フレアーズ / 【Single】(1961)
◎サム・レイ・ブルースバンド / Sam Lay In Bluesland(1969)
◎ジェリー・リー・ルイス&リンダ・ゲイル・ルイス / Together (1969)
◎ジョニー・リヴァース / Here We A Go Go Again!(1964)
◎ソニックス / Here Are The Sonics !!!(1965)
◎マウンテン / Flowers of Evil(1971)
◎マーガレット・ルイス / Lonesome Bluebird(1961)


品種書籍
仕様四六判 / 192ページ
発売日2017.08.21

<著者プロフィール>
小出 斉(こいで ひとし)
1957年新潟生まれ。大学時代に吾妻光良と出会い、1977年にブルースバンド、ローラーコースターに加入。ギタリストとして活躍する一方、ギター・マガジンを始めとする音楽誌、レコード・ライナーノーツなどでの評論活動も有名。日本屈指のブルース研究家のひとり。