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2017.12.18

【Interview】矢野顕子|サウンド&レコーディング・マガジン2018年1月号より

Text:Susumu Kunisaki

吉野金次さんがもうSTEINWAYは分かったから
BECHSTEINでの私を聴きたいって思ったんでしょうね

矢野顕子がピアノ弾き語りシリーズとしては5作目にあたるアルバム『Soft Landing』をリリースする。1992年、長野県松本市にあるザ・ハーモニーホールと東京都・千駄ヶ谷にある津田ホールの2カ所でレコーディングされた『SUPER FOLK SONG』を皮切りに、1995年にはウィーンの古城とロンドンのアビイ・ロードで録られた『PIANO NIGHTLY』、2000年には矢野のプライベート・スタジオで作り上げた『Home Girl Journey』とほぼ5年おきにリリースし続け、いずれも圧倒なパフォーマンスとサウンド・クオリティにより、多くのリスナーを魅了してきた。しかし、2007年、それまですべての録音とミックスを担当し、アルバムの共作者とも呼べる存在であったエンジニアの吉野金次氏が病に倒れ、中断を余儀なくされる。氏のリハビリを待ち2010年に制作された『音楽堂』で再始動を果たすが、それに続く本作では、吉野氏は"監修"という立場となり、録音とミックスは渋谷直人氏が担当することとなった。シリーズ始まって以来の大きな変化だが、果たしてその出来はこれまでのアルバムに勝るとも劣らない素晴らしいものであった。早速、矢野に新体制でのレコーディングについて振り返ってもらうことにした。(本誌では吉野氏、渋谷氏へのインタビューも掲載)

吉野さんが"いいですね"って言ったら
それはお墨付きなんです

ー矢野さんのピアノ弾き語りアルバムは、これまですべて吉野金次さんが録音とミックスを担当されていまし
た。今回、吉野さんは監修としての参加となりましたが、どういう経緯だったのでしょうか?

矢野 ピアノ弾き語りのレコーディングのときはいつも向こう側に吉野さんが居て、私の音を作っているというやり方をしてきました。意識の上でセットになっていたんです。でも、今の吉野さんの状態を見て、これまでと同じ仕事をお願いするのは現実的ではないと思ったんです。吉野さんもご自身の状態のことを分かっていて、その上で自分の役割を自覚してくださっていると思いました。もちろん、本当はミックスをやってもらいたかったですけど、できないのであればそれはそれでOK。レコーディングの現場に居てくれて、私が作りたい音を受け止めてくれる......それだけでもいいと思ったんです。

ー吉野さんは録音現場に毎日いらしたのですか?

矢野 はい、毎日通ってくださったんです。すごく心配でしたけど、それはもう毎日うれしそうに(笑)。

ー現場でディレクションをされていたのですか?

矢野 最終的なテイクの判断をしているのは、もちろん私なんですけど、"吉野さん、今のどう?"って聞いて、吉野さんが"いいですね"っていったらそれはお墨付きなんですね。それは『SUPER FOLK SONG』のときからずっと同じです。

ー『SUPER FOLK SONG』といえば、その録音風景を収めたドキュメント映画『SUPER FOLK SONG〜ピアノが愛した女。〜』が2017年にリマスター&再上映されました。あのときはステレオ一発録りで、つなぎも絶対にやらなかったことにあらためて驚きました。

矢野 あんな無理をしなくていいのにね。なぜ、あそこまで......馬鹿じゃない?って。でも、あのときはテイクをつなげばいいとかは思わなかったのよね。絶対に弾き通す!って意地というか、そのときの美学があったわけですよ。今回はその美学は微塵もない......いや、無駄なことはしないという別の美学になってます(笑)。気持ち的にはもちろん一発でと思っていますけど、それこそ私の実力では非現実的な願いなので。でも、実際には今回のアルバムでも通して弾いた曲はあります。

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年1月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年1月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 308ページ
発売日2017.11.25