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2018.03.30

音楽バンドSUPERCARの『HIGHVISION』と『ANSWER』アナログ化に巨匠バーニー・グランドマン参加|サウンド&レコーディング・マガジン 2018年5月号より

Text by Kentaro Shinozaki, Interpretation by Hashim Bharoocha, Photo by Akiko & Hashim Bharoocha

1990年代後半のロック・シーンを象徴する存在として今なお語られることの多いバンド、スーパーカー(SUPERCAR)。バンド自体は5枚のオリジナル・アルバムを残して2005年に解散したが、デビュー20周年を記念したアルバムのアナログ・レコード化プロジェクトが昨年発足し、1st〜3rdの3作品がバイナル・リリースされた。そして3月28日に、いよいよ後期の『HIGHVISION』と『ANSWER』がレコード盤となって登場。しかも、あくまで音質にこだわって海外カッティングを行い、レコード業務を数十年ぶりに再開したと話題のソニーDADCジャパン 大井川工場にてプレスされているという。誌面では東京〜LA〜静岡を横断したこのプロジェクトの全工程を追っているが、ここではLAでのバーニー・グランドマンによるカッティング工程をピックアップ。インタビューを本誌より抜粋してお届けする。

 世界屈指のマスタリング・エンジニア、バーニー・グランドマン。スティーリー・ダン『彩(エイジャ)』、マイケル・ジャクソン『スリラー』、プリンス『パープル・レイン』など名だたる名盤を手掛け、現在も現役で仕事を続ける巨匠である。前章で見たように、『HIGHVISION』『ANSWER』の24ビット/48kHzを受け取った彼がレコード製作の重要部分=カッティングを担当。LAにあるバーニー・グランドマン・マスタリングを訪れ、カッティング・ルームで彼の仕事を語ってもらった。

アナログ盤での再現性を支える長年の経験

 このカッティング・ルームは、私のスタジオで今一番忙しい部屋です。3年くらい前からアメリカでは有名グループの歴史的名盤の再発が増えており、最近では日本からの依頼も多くなっています。レコードはアーティストとのつながりが感じられ、アートワークも大きいのでファンは喜びます。しかし、皆が思うよりデリケートな媒体で、たくさん再生したり、丁寧に扱わないと摩耗します。本当に"アナログ"な媒体なわけですね。レコードの利点は、オール・アナログ・レコーディングをすれば他のフォーマットに変換することなく、リスナーに届けられることです。音質のロスというものは、多くの場合アナログからデジタル、またはデジタルからアナログに変換した際に起きます。私たちは、最終的に商品になったときに音がどのくらい正確に再現されるかを意識しなければいけません。私には長年の経験があるわけで、それが他のエンジニアとの違いです。昔カッティングをやっていた多くのエンジニアはもう引退しています。私は現役で続けている数少ない人間なのです。

 スーパーカーのカッティングは、送られたファイルを元に作業したわけですが、データそのままでは完成ではありません。スーパーカーの場合は大きな問題はありませんでしたが、ボーカルの音量がやや小さいと感じました。それは意図的なバランスだったと思いますが、私はそこにEQをかけて、もう少しディテールを引き出すようにしました。それが正しかったかは分かりませんが、リスナーが作品とよりつながりを感じられるように採った決断です。

カスタム・メイドの機材が支えるカッティング

SCULLYを土台にしてカスタマイズを施したカッティング・マシン。ここに信号を入力して、ラッカー盤に刻んでいく。本番カッティングの前にテスト・カッティングを行い、溝を刻みながら半回転後のプレイバック・アームで信号を聴きながら問題が無いかチェック

 EQなどデスクにある機材はすべてカスタムのものです。そして見てもらうと分かるように、左右に同じEQが埋め込まれています。カッティング時は、CUBE-TECH AudioCubeから再生したファイルをEQし、カッティング・マシンのラッカー盤へリアルタイムに刻んでいきます。当然、曲ごとにEQ設定が異なるので、最初の曲は右側のEQをかけ、次の曲は左側のEQをメモしておいた設定にして切り替える、といった作業を必要に応じて行います。

 ここにあるカッティング・マシンはSCULLY製ですが、多くの人はNEUMANNの方が扱いやすいでしょう。コンピューターや旋盤などシステムすべてがセットになっているからからです。しかし正確に言うと、カッティング・マシンはSCULLY製ですが、私たちはいろいろと実験するのが好きなので、TECHNICSのモーターを使ったり、また純正ではない優秀なコンピューターを組み込むなどしています。コンピューターは曲間のスペース、溝と溝の間隔、溝の深さなどをコントロールします。溝の幅は信号の音量や針の左右の動きによって異なりますが、コンピューターが1回転先の信号を解析して、どのくらい溝を動かすべきかを決めます。位相変異も先読みして、どのくらい溝を深く掘るべきかも決めてくれます。溝と溝の間隔を最小に保ちながらも、ぶつかり合わないように、常にコンピューターが先読みして解析してからラッカー盤にカッティングしていくわけです。とても高度なマシンなのです。

 デジタル・ファイルとレコード、どちらの方が音が良いか?と問われたら、それは音楽によるとしか言えません。レコードに激しい音や高い周波数の音、濃密な音を入れようとするとうまくいかないことがあります。信号が複雑過ぎると問題になるわけです。デジタルはディテールを引き出しやすいので、ジャンルによってはそちらの方が向いていることもあります。逆に、デジタルは包み隠さずありのままのサウンドがはっきり出るので、レコードの方が聴き心地が良い音楽もあります。特に再発盤では、クライアントがデジタル・ファイルとアナログ・マスター・テープの両方を持っている場合があるため、私たちは両方を聴き比べ、どちらがレコードに向いているかを決めています。そしてRTI(編注:本誌では続くページで紹介)のように安定したパフォーマンスの工場でプレーティングし、スタンパーを大事にしながらプレスするなど、すべての条件がそろえば、素晴らしいレコードが出来上がるのです。それほどレコード作りは複雑なのです。

『HIGHVISION』(オリジナル発売日:2002年4月24日)
<レコード盤>ソニー/GREAT TRACKS:MHJL-32(完全生産限定盤)

『ANSWER』(オリジナル発売日:2004年2月25日)
<レコード盤>ソニー/GREAT TRACKS:MHJL-33〜34(完全生産限定盤)

(完全版はサウンド&レコーディング・マガジン2018年5月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年5月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 228ページ
発売日2018.3.24