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2018.04.19

さとう宗幸インタビュー/1978年日本作詩大賞秘話|『A面に恋をして』より

text by 谷口由記

シングルの表題曲が"A面"と呼ばれた時代に生まれた名曲について、歌い手自らが振り返る書籍『A面に恋をして 名曲誕生ストーリー』から、貴重な証言の数々を抜粋してお届けするインタビュー。第10弾は、さとう宗幸が語る「青葉城恋唄」。

さとう宗幸「青葉城恋唄」

1978年日本作詩大賞秘話----阿久悠からの助言

―私が非常に興味を持ったのが、「時はめぐり」の「とき」の話なんです。だから今回、詞の表記が違う2種類のレコードを持ってきました。

 なるほど。

―阿久悠先生に、最初に歌詞を指摘されたタイミングはいつだったんですか?

 火がついたころですね。推測ですけど、10万枚とか、その辺だと思うんだけど。こっちのジャケット(初回盤)は、あっという間に消えましたから。そのころ「青葉城恋唄」が売れてきて、赤間さん(担当ディレクター)が阿久悠さんに言われたそうなんです。「赤間ちゃん、これ、暮れになったら問題になるからね」って。赤間さんと阿久悠さんは、けっこう知己で。

―歌詞に「時はめぐり」とあるけど、「時はめぐるものではない」と。

 タイムですよね。タイムは過ぎていくだけで、めぐってくるものじゃないと。だから、タイムからシーズンにして、「季節」と書いて「とき」と読ませればいいと。

―暮れに問題になるというのは、賞レースという意味。

 あのころ、20、30と音楽祭がありましたから。そういう音楽祭の審査のときに問題になると。赤間さんもピンときたんでしょうね。あ、そうだなと。で、それから「季節」に変えて。結果論だけど、これ、タイム(時)のままだったら、日本作詩大賞は、絶対、獲れなかったね。言葉にこだわる人たちでしょう。作詞家の人たちと、審査員の方たち。そうなったときに、これは、ってなっちゃうよね。

―そして、ジャケットの歌詞を修正して発売。その年の日本作詩大賞の候補には、阿久悠先生の曲が3曲入っていたんですよね。

 いやあ、もうあの年はね、ピンク・レディー全盛期。ミリオン・セラーがどれだけ出ているか。

―その年に、「青葉城恋唄」が......。

 グランプリですよ。当時は銀座音楽祭、横浜音楽祭、新宿音楽祭とかあって、だいたい、そういったマスコミ、メディア主催の音楽祭は、誰が受賞するか、事前の雰囲気である程度わかるんですよね。
「宗さん、今日は銀賞らしいよ」
「今日は審査員特別賞みたいだよ」
 とかね。すると、だいたいそのとおりに呼び出されるわけですよ。
 日本作詩大賞はね、赤間さん含めて、「何もないからね」と言っていた。ド新人の作詞家で、ド新人の歌手で、いる人たちは、沢田研二さん、ピンク・レディーさん。作詞家は、阿木燿子さん、中島みゆきさん、阿久悠さんと、ずらっといるわけじゃないですか。そのなかに、星間船一って。獲れるわけがない。
 だからもう、僕と星間さんは、自分の曲を歌ったら、あとは授賞式が終わるのを待つだけですから。そんな感じで悠長にステージを眺めていたときに、アナウンサーが「今年の日本作詩大賞は―」って、何の緊張もないわけですよ。そうしたら「青葉城恋唄」って言われて、それはそれは......もう「え? なんでや」みたいな感じですよ。
 今でも覚えていますけど、あの3000人いるNHKホールのお客さんと、錚々たる作詞家の先生たち、歌手の方たちがいる前でインタビューされても、一言も喋れないのはわかりますよね? 田舎から出ていった誰も知らない作詞家が、NHKのアナウンサーに「今の気持ちは?」って聞かれて何も答えられない。あの気持ち、わかりますよ。78年の日本作詩大賞の「青葉城恋唄」というのは、これはもう、あり得ないでしょうね。

―たしかに。それまでの歴代の受賞者を見ても、ちょっとあり得ないですね。

 ド新人が獲ったことのない賞。そのなかに、星間船一の名前がある。

―すごいですね。

 赤間さんにあとから聞いたのかな。阿久悠先生が、赤間さんところにきて、「今年はこれで良かったんだよ」っておっしゃったと。だから、あの人はどこまですごい人なんだって。作詞家である以上、その年の最高の賞は誰でも欲しいはずなのに......。ましてや、阿久悠さんご本人が「この詞を変えなさい」っておっしゃったんだから。
 なぜ「青葉城恋唄」が日本作詩大賞に選ばれたのかというと、審査員室のあるワン・シーンがきっかけらしいんですよ。

(続きは書籍『A面に恋をして』にて!)

さとう・むねゆき●1949年岐阜県生まれ。1978年のデビュー曲「青葉城恋唄」が大ヒットし、同曲で『第29回NHK紅白歌合戦』に出場。1981年、ドラマ『2年B組仙八先生』で主演、1987年、NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』に出演するなど、俳優としても活動。現在は仙台を拠点に活動し、ミヤギテレビの夕方ワイド番組『OH!バンデス』の司会を担当。2018年でデビュー40周年を迎える。 http://www.satoon.co.jp/


A面に恋をして 名曲誕生ストーリー

品種書籍
仕様四六判 / 192ページ
発売日2018.03.16