DISC 2
2Yer Blues
ヤー・ブルース
1968年8月13日、アビイ・ロード・アネックス/14日、第2スタジオ/20日、第3スタジオで録音
「死にたい」と連呼するジョンの曲
シンシアとの結婚生活に悩んでいるときの作曲。詞の中に出てくる「♪ Just like Dylan’s Mister Jones」とはボブ・ディランの『追憶のハイウェイ61(Highway 61 Revisited)』に収録されている「やせっぽちのバラード」の中の登場人物で、普通の社会生活を送っていたところ、突然周りの世界から拒否され始めるという不条理な世界の主人公。
オノ・ヨーコとの出会いによりシンシアに負い目を感じながらも、知的なアーティストとしての自分を高めてくれる女性であるヨーコに惹かれていたジョン。結婚生活にも区切りをつけなければいけないという苦しい思いがまったく周りにはわかってもらえず、ビートルズのメンバーをはじめ、当時のビートルズ・ファンからも総スカンを食らっていた彼は、かなりの孤独感を持っていた。
アルバム2枚目のトップの曲が「バースデイ」で、次の曲が「I’m lonely, wanna die」というのは当時のポールとジョンの恋人との関係が象徴されているような曲順だ。
8月13日と14日でほぼ完成した音に、20日にリンゴのカウントをオーバー・ダビングした。ステージで演奏をしているようなサウンドを出すために、コントロール・ルームのとなりの物置部屋のような小部屋に楽器もメンバーも押し込んで録音された。
元々ドラムスの音の分離をよくするためにRoom 2A という狭い部屋に入れて録音しようとしたときに、リンゴがポールのベースと一緒に合わせたいということで、ポールもその部屋に入った。今度はポールがジョンもいてくれなくては困る、ということでジョンが入って録音がスタート。1人で大きなスタジオに残って演奏していたジョージが、我慢しきれなくなってアンプと一緒にRoom 2Aに入っていったという。ジョンは「キャバーンを思い出す。この狭いところでの演奏のほうが音楽のパワーが増す」と言っている。
リンゴの「Two, Three」のカウントから入る臨場感あふれるロックン・ロールだ。
全体の印象はジョンの作り出したサウンドそのもの。「E7」のコードでの「♪チャカ・チャ・チャ」というジョージが弾くカッティングと、掛け合いのジョンの「♪G→ G# → E」というチョーキングのフレーズが、歌詞の「♪ Yes, I’m lonely, wanna die」という悲痛な叫びの不安感を増幅させる。この不安なフレーズが最初から最後まで鳴り続けている。
ジョンは間奏でギターのコードのバリエーションで2拍3連を延々と繰り返すフレーズを弾き続ける。このコード(和音)で弾く3連や2拍3連のフレーズはジョンが「オール・マイ・ラヴィング」のカッティングや「ユー・キャント・ドゥ・ザット」やアルバム『アビイ・ロード』収録の「ジ・エンド」の間奏など、ビートルズの初期から後期まで弾いていた得意のカッティング・フレーズのパターンだ。
その後のハイ・ポジションのディストーションのかかったフレーズはジョージが弾いたものだろう。そのバックでフレーズが小さめの音量で聴こえるのはリズム・トラックのレコーディングでジョンが弾いたものだ。つまりジョンはギターをオーバー・ダビングしている。
ポールのベースは確実で芯の太いサウンドで演奏している。ほかのプレイヤーがどんなことをやろうと、ポールの作り出すリズムでの支えがあれば、急にシャッフルになろうと、ブルースになろうと、乱れることはないという安心感がある。ちなみにこのときのポールの使ったベースはフェンダーのジャズ・ベースだったということがレコーディングを見学したセントルイスの若いバンドThe Aero Vons のトム・ハートマン(Tom Hartman)によって証言されている。
リンゴのドラムスもところどころオーバー・ダビングされている。基本は8分の12拍子だが、途中で4分の4拍子やシャッフルのリズムになったりとブルースやハード・ロックの様々な要素が詰まったサウンドになっている。
<使用楽器>
ジョン:エピフォン・カジノ
ポール:フェンダー・ジャズ・ベース
ジョージ:ギブソン・レス・ポール
リンゴ:ドラムス