DISC 2
9Honey Pie
ハニー・パイ
1968年10月1日、2日、4日、トライデント・スタジオで録音
ポールが書いた1920 年代ジャズ風の曲
ポールが1920年代の作曲家のような気分で書いた。ポールが好きなボードビル・スタイルの曲で、「父親がよく聴いていた古いレコードを思い出しながらこの曲を作った。パロディではない。昔の歌には、最近あまり耳にしなくなった善良な考え方がある」というのが持論である。詞の内容はイギリス北部出身でアメリカに渡ってハリウッドのスターになってしまった女の娘、ハニー・パイに、帰って来てくれ、というものだ。
ベーシック・トラックはポールのピアノに、なんとジョージがベースを弾き、そしてジョンがギター、リンゴのドラムスというのは「ロック・アンド・ロール・ミュージック」のときと同じ楽器編成だ。
ただし、曲調はまったく違う。この曲のジョンのギターはジャズ・ミュージシャンのようだ。普段はロック以外は音楽ではない、というくらいの発言をする割には、実にジャズっぽい雰囲気を出しているのだ。ポールが「♪ She was a working girl」と静かに歌いだすバックでも、歌の合間にフレーズを弾くのだが、非常に心地いいタイミングで、心地いいフレーズで絡んでくる。
その後のポールの歌う「♪ Now she’s hit the big time」のボーカルには、大量のリミッターをかけ、高音域と低音域をカットして、そこに昔の蓄音機の針のノイズをオーバー・ダビングして、すり切れた78回転レコードの雰囲気を出しているのも効果的だ。
ジョンはエピフォン・カジノのセンター・ピックアップでソフトなトーンにしたギターで、ジャズっぽいフレーズを弾いている。ジョージではこの雰囲気にはならなかっただろう。この曲の担当楽器は間違っていないのである。ハンブルク時代に、ジャズ・バンドのジョージ・シアリングのグループでギターを弾いていた、ジーン・トゥーツ・シールマンスのリッケンバッカー325を見て、同じギターを手に入れたほどだから、決して口にするほどジャズ嫌いではなかったのだろう。
ジョージは「ジョンが見事なソロを弾いている。まるでジャンゴ・ラインハルトのようなソロだったね。ちょっとしたジャズのソロって感じだったな」と言っている。マーク・ルイソンの『レコーディング・セッションズ』にはポールが間奏のギターをダビングしたとの記述があるが、音源を聴いての判断だと思われる。ジョージがあえて発言しているのを考えるとジョンで間違いないだろう。
ジョージ・マーティンのアレンジもサックスとクラリネットのサウンドがまさに20年代のハリウッド映画のサウンドそのもの。
<使用楽器>
ジョン:エピフォン・カジノ
ポール:ピアノ
ジョージ:フェンダー・ジャズ・ベース
リンゴ:ドラムス
サックス:デニス・ウォルトン、ドナルド・チェンバレイン、ジム・チェスター、レックス・モリス、ハリー・
クライン
クラリネット:レイモンド・ニューマン、デビッド・スミス