DISC 1
11Blackbird
ブラックバード
1968年6月11日、アビイ・ロード第2スタジオで録音
ポール得意のツー・フィンガー奏法が冴えわたる曲
ポールがスコットランドの農場で作曲した。ポールは「題名は知らないがバッハの曲がインスピレーションになっている。メロディとベース・ラインがハーモニーする部分に惹きつけられた。メロディに詞をつけているときに、鳥じゃなくて黒人女性を描いていた。当時、黒人の公民権運動を支持していたのが理由。ちょっとヴェールをかぶせて鳥という存在を使うことでどんな聴き手にも当てはまる励ましの歌にした」と言っている。ジョージとリンゴがアメリカに行っている間、アビイ・ロードの第3 スタジオではジョンが「レヴォリューション9」をレコーディングし、第2スタジオではポールが「ブラックバード」をレコーディングした。
ジョンがヨーコとクリス・トーマスを連れてスタジオを出ていき、第2スタジオにはポールとジェフ・エメリックとジョージ・マーティンの3人になった。ジェフ・エメリックは久しぶりに穏やかな気分で仕事をしたと言っている。
ポールは右利き用のマーティンD-28に弦を上下反対に張り、メトロノームのリズムをバックに演奏した。サビの「♪ Blackbird, fly… Into the light of the dark, black night」の部分だけ、ボーカルがダブル・トラッキングになっている。
基本的にツー・フィンガーのピッキング。ポールはこの弾き方について「僕は自分流の弾き方でずっと弦を2本同時に弾いているんだ。そして、フィンガー・ピッキングっぽくなるところはごまかしてちょっとインチキして弾いている。今までレッスンというものを受けたことがなく、ギターもベースもピアノも乗馬も全部自己流なんだ」と言っている。とはいえポールのギター・テクニックやアレンジの才能には脱帽である。ポール本人もかなり気に入っている曲で、ライブでは必ずといっていいほどレパートリーに入っている。
イントロの2小節と歌いだしの2小節目までは同じコード進行なので、ツー・フィンガーの弾き方のイメージを書いてみると、1小節目は4分の3拍子で、コードが1音ずつ変わっている。1音目はコード「G」で、ここは2弦開放「B」と6弦3フレットの「G」を同時に弾き、次のコード「Am」では2弦1 フレ「C」と5弦開放の「A」を弾く。3つ目のコード「G」では2弦3フレット目「D」と5弦2フレの「B」を弾き、押さえたまま一気に2弦12フレット「B」、5弦10フレット「G」までスライドする。
1小節目は1拍目と2拍目のウラに3弦開放の「G」の音を挟む。2小節目は4分の4拍子でコードは「G」。ここは上がってきた2弦12 フレット「B」、5弦10フレット「G」の音を1拍目と3拍目で弾き、その間を3弦開放の「G」と2弦12フレット「B」をストロークでスリー・フィンガー風の「♪タン・ツタ・ツタ・トン」のリズムで弾く。
3、4小節目で「♪ Blackbird singing in the dead of night」を1、2小節目と同じ弾き方で歌う。
というように、アルペジオではなく2音同時に弾くところ以外は、指1本のストロークが基本。このストロークを、ポールが自分でインチキと言っているのだが、オリジナルなツー・フィンガー・ピッキングになっている。
ポールがアウトドアで歌っている感じにしたい、というのに応えてジェフ・エメリックはエコー・チェンバーのある部屋の外にスツールが置けるくらいのスペースがあったのでマイク用の長いシールドを這わせ、夏の夜アビイ・ロード・スタジオの外でレコーディングした。ジェフ・エメリックが言うには、鳥の声の大部分はアビイ・ロード・スタジオのサウンド・コレクションの黒ツグミ(Blackbird)の声をオーバー・ダビングしたものだが、ホンモノのスズメやフィンチの声も入っている、とのことである。
マーク・ルイソンの『ザ・ビートルズ史〈誕生〉』によると、「The Blackbirds」はグループ名の候補にもなっていたことがある。そのときに一時的にグループ名として決まったのは「THE JAPAGE 3」だった。“ ザ・ジェイペイジ・スリー” と読み、「J」はジョン、「PA」はポール、「GE」はジョージからとっている。このときのメンバーはこの3人ということだったらしい。
<使用楽器>
ポール:マーティンD-28、メトロノーム、足音
ジョン:不参加
ジョージ:不参加
リンゴ:不参加