リットーミュージック

DISC 1

6The Continuing Story Of Bungalow Bill

コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル

1968年10月8日、アビイ・ロード第2スタジオで録音

イントロの3 小節間のフラメンコ・ギターはメロトロンのサンプル音源だった

 ジョン「〈コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル〉は、短い休みをとって哀れな虎を2、3頭撃ちに行った男が、神とともに部落に帰ってくるというストーリーで書いた」。

 インド滞在中にジョンが書いた作品で、リチャード・クックIII 世というアメリカ人青年の実話がもとになっている。リチャードは大学を卒業すると、マハリシの講義を受けていた母親のナンシーをリシケシュまで訪ねて来た。リチャードは瞑想をしに来たわけでもなく、母親に会いに来ただけだった。暇を持て余していたところにガイドから虎狩りを勧められた。リシケシュから3時間ほど離れた場所で虎狩りは行われた。母親と木製の壇に乗り、木の中に隠れていたとき、黒と黄色の動物がサッと目の前を通り過ぎた。ビックリした母親の叫び声を聞いて、リチャードはふり向きざま、虎の耳を撃ち抜いた。仕切っていたテキサス人のガイドは「このことを絶対、他人にしゃべるんじゃないぞ」と言って戦利品の虎の皮や爪を横取りした。

 動物を殺したことが悪いカルマをもたらすのではないかと、不安になったリチャードは母親とともにマハリシに相談した。そこにジョンとジョージも同席していた。マハリシは自分の信奉者がそんな残酷なことをしたことに動転し、初めて見るほど怒っていたという。ジョンが非難をすると、母親がジョンに「間一髪の状況だったの。虎はわたしたちに跳びかかろうとしていたのよ」と言い訳をした。

 ジョンはリチャードを、アメリカの西部開拓史上の英雄と言われたバッファロー・ビルをもじって、住んでいたバンガロウに引っ掛けて、バンガロウ・ビルという主人公にした。ポールは「ジョンの素晴らしい作品のひとつだ。今でも僕のお気に入りだ。“なぜ虎を撃ちに行かなければいけないんだ”~これが歌のメッセージだ。“ もう大人だろう? ” ジョンはうまく表現してるよね。ジョンは特に動物愛護運動をしていたわけじゃないけど、曲で彼の心情を表したんじゃないかな。時と共に価値を増した曲だ。動物の絶滅寸前の問題など、より現代の状況に密着している。意味がある曲だ」と誉めている。

 このイントロの3小節間のフラメンコ・ギターは「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」で導入した新しい楽器「メロトロン」のサンプルとして入っていたうちのひとつの音を、ジョンがそのまま使った。

 メロディ・パートの「♪ He went out tiger hunting ~」のバックで聴こえるトレモロのかかった弦楽器の音はギターではなく、クリス・トーマスがメロトロンでマンドリンの音を使って弾いたものだ。エンディングの「♪ Hey Bungalow Bill what did you kill, Bungalow Bill」の3回目の繰り返しから入ってくる管楽器の音もメロトロンのトロンボーンの音を使って弾いている。

この曲で初めてオノ・ヨーコの歌が入ってきた

 「♪ Not when he looked so fierce」と、すぐ後のユニゾンの「♪ If looks could kill it would have been us instead of him」の部分がそれだ。これがビートルズのレコードに初めて入った女性の声だ。

 リンゴの妻のモーリーン・スターキーもコーラスで参加している。マーク・ルイソンの『レコーディング・セッションズ』にはオーバー・ダビングの様子が書いてある。陽気で場当たり的なレコーディングで、雰囲気を重視してミスもそのまま残してある。録音は飛び入り自由で、スタジオにいた者はみな大声でコーラスを歌い、拍手喝采し、口笛を吹き、ジョンのリード・ボーカルをバックアップした、と書いてあるが、ジェフ・エメリックは違った見方をしている。

 ヨーコは最初の何日か、ジョン・レノン以外の人間には一言も言葉を発しなかった。ある日の午後、バッキング・ボーカルのダビング中に、ジョンがいきなりヨーコに「このパートはきみがやってくれ」と言った。さっきまでそのパートを歌っていたポールは、本気なのか、というようにジョンを見つめ、げんなりした表情でマイクの前を去った。そばで見ていたジョージとリンゴは、眉をひそめて顔を見合わせた。ジョンは動じることもなくヨーコにヘッドフォンを手わたしヨーコがマイクの前に立った。メンバーの中でヨーコの参加を望んでいたのはジョン1 人だけだった、という。

 ジョージがベースを弾いたと語っているので、ポールはこのままスタジオを出ていってしまったのだろう。ジョージ・マーティンのアシスタント・プロデューサーになったばかりのクリス・トーマスがメロトロンを弾いたのもこのせいだったのだろうか?

 この曲の最後に、ジョンがイギリス北部のアクセントで発した「Eh,up!」が次の曲「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」の始まりとしていいきっかけになっている。

<使用楽器>
ジョン:ギブソンJ-160E
ポール:不参加
ジョージ:フェンダー・ジャズ・ベース
リンゴ:ドラムス、タンバリン
クリス・トーマス:メロトロン
オノ・ヨーコ:ボーカル、コーラス
モーリーン・スターキー:コーラス
その他スタジオにいた人たち:コーラス、ハンド・クラップ