DISC 1
7While My Guitar Gently Weeps
ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス
1968年7月25日、8月16日、9月3日、5日、6日、アビイ・ロード第2スタジオで録音
クラプトンの参加でジョンもポールも真剣にプレイ
ジョージの作曲した、「サムシング」と並び称される名曲。この曲を書いた頃、ジョージは中国の「易経」の本を持っていた。「あらゆる出来事は起こるべくして起こる、偶然などというものは存在しない」という東洋思想に基づいた本だった。両親の家を訪ねたときにもこのことが頭にあり、最初に出会った言葉を元に歌を書こうと決めた。適当にとって開いたページに「Gently weeps」と書いてあった。
ジョージは自分の曲のレコーディングを辛抱強く待っていた。ジョージ自身の言葉で「ポールとジョンの曲を10曲くらいやってからでないと時間をもらえなかった」と言っている。
1968年5月30日にこのアルバムのセッションが始まってから7月25日のこの日まで、用意していた曲を提出できなかった。ただし7月25日、8月16日、9月3日にレコーディングされたテイクは全部ボツ。9月5日のリズム・トラックに、9月6日に伝説のエリック・クラプトンのリード・ギターがオーバー・ダビングされた。
イントロはコード「♪ Am → Am7 → D7 → F」の部分で、ポールの弾くピアノがAの単音を鳴らし続けるところに、ジョージのアコースティック・ギターが、得意なクリシェのコード進行を用いて低音で「♪ A → G → F# → F」と入ってくるところからスタートする。
ポールのベースのメロディをジョージが12 弦でユニゾンで弾いた
サビはAメジャーになり、雰囲気が変わるが、ポールのベースが作り出すフレーズで、哀愁のあるメロディはキープされている。このサビのベースのメロディを、ジョージがリッケンバッカーの12弦ギターを使って完全にユニゾンで弾いて強調している。リマスター・ステレオ・バージョンでは右がポールのベース、左にジョージの12弦エレキ・ギターが配置されている。
ジョンもポールもジョージの曲に関しては真剣に聴こうともせず、とりあえず1曲は入れてあげようという程度で、適当にレコーディングしようとしていた。ジョージは、この曲の録音のわずか2時間前、近所に住んでいたエリック・クラプトンの車に便乗して自宅からロンドンへ向かう途中で、ビートルズのセッションに参加しないかと誘った。クラプトンはビートルズのセッションでの演奏は恐れ多いと固辞したのだが、「僕の曲だぞ!その僕が参加してくれと言っているんだ」とのジョージの言葉で参加を決めた。
クラプトンの参加は、言い争いが続いていたスタジオのムードにいい緊張感を与え、みんなが冷静になり、ジョンもポールも外部の人間には悪印象を与えたくなくて、真剣にプレイする気になった。
ポールのベースはかなりゴリゴリの音にチューニングされ、クラプトンに決して負けていない素晴らしい演奏をしている。「クラプトンは協調性もあり謙虚でいい感じだった」とポールはそのときの印象を語っている。
クラプトンはセッション・ミュージシャンの立場を守り、あくまでもビートルズの枠を守った演奏をした。演奏後にエンジニアに「クラプトンっぽくしないでくれ」という注文を出した。エンジニアたちはフランジングなどによりサウンドに馴染ませた。クラプトンはジョージに「クリームはレコーディングになると徹底的にリハーサルをして実際のレコーディング時間はほんの少しだけど、ビートルズは気に入ったのが録れるまで何度でも徹底的にレコーディングするんだね」と言ったという。スタジオ時間や録音テープを自由に使えるようになったビートルズは、リハーサルからレコーディングされ、その音源が編集などで本番のセッションそのものになることも多かった。
ひと月ほど前にエリック・クラプトンがジョージにプレゼントしたギブソン・レス・ポールで演奏したバッキングや間奏やエンディングでのリード・プレイは1テイクにもかかわらず完璧だった。
ジョージのレス・ポール「ルーシー」のエピソード
ところで、ジョージが「ルーシー」と名づけたこのギブソン・レス・ポールは不思議な運命のギターである。元々、ラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャンが持っていたゴールド・トップのギターだった。その後、エドガー・ウィンターやスティーリー・ダンのギタリストとして有名なリック・デリンジャーがマッコイズ在籍時代に入手し、ボディ・カラーをクリア・レッドに塗り替えた。出来上がったギターは、リフィニッシュする前ほど良い音がしないと感じたデリンジャーはニューヨークのギターショップでサンバーストのレス・ポールと交換した。そのギターをエリック・クラプトンが購入し、ジョージにプレゼントした。その後、このギターは盗難にあったが、ジョージは売りに出されたという話を聞き、条件に出された高価なレス・ポールを購入し交換して取り戻し、生涯手元に置いていた。
ちなみにエリック・クラプトンの名前はアルバムにクレジットされてい ない。
<使用楽器>
ジョン:エピフォン・カジノ
ポール:リッケンバッカー4001S、ピアノ
ジョージ:ギブソンJ-160E、リッケンバッカー360/12、ハモンド・オルガン
リンゴ:ドラムス、カスタネット、タンバリン
エリック・クラプトン:ギブソン・レス・ポール