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【kors k編】HOW TO MAKE? 音ゲー・トラック・メイク術(第1回)|『EDPクリエイターズ・ブック』より
Text by リットーミュージック コンテンツ企画部
音ゲーのトラック作り......そこには通常のダンス・ミュージックとは異なるメソッドがあります。今回、数々の音ゲー音楽を生み出してきたEDP(EXIT TUNES DANCE PRODUCTION)のサウンド・クリエイターに、彼らならではのトラック・メイク術を披露してもらいました。第1回目はジャンルレスに無限の音世界を生み出すkors k。アイディアを盛り込むために1曲に1ヵ月を費やすこともあるという彼が、ここでは時間制限つきでトラック作りに着手。kors kサウンドの秘密を明らかにしていきましょう。
【TIME 00:00〜14:59】
kors kサウンドの肝は
キックにあり!?
案件によっても変わりますが、『beatmania』の曲になると、1曲作るのに1ヵ月かかることもあります。もうやりつくした感もあるので......(笑)。ただ、ずっと作業をしているわけではなく、間を置いて、音を詰め込める場所はないかとか、トリッキーなことはできないかっていうことを考えます。だから、早くて1週間、遅くて1ヵ月です。
作業は、まず絶対に使うトラックをまとめたCUBASEのテンプレートを開きます。
kors kが楽曲制作時にまず開くオリジナルのテンプレート。あらかじめトラックごとに楽器が割り当てられ、曲に合わせてトラックをチョイスしていく。
全部が全部使うわけではないんですけど。まずテンポを決めるためにキック(バス・ドラム)をトラックに並べます。僕は大体サンプル音源を使います。最近のCUBASEにはライブラリ検索があるのですが、僕は昔から慣れているオーディオ・インポート機能を使っています。最近よく使っているサンプル・パックからキックを選びましょう。
こちらはTrance Kicksと名付けられたお気に入りのサンプル・パック。このままでも十分いい音だと言うが、単独で使うことはなく、必ず2音以上を混ぜて使う。
キックは2種類重ねることが多くて、アタッキーなキックとローが利いたメインのキックを重ねます。
kors kのキック・トラックの基本的な状態。Kick Lo、Kick Clickの2トラックが使用され、それぞれ異なる波形のものが組み合わされている。
最初に大体4音を並べて(4つ打ち)、その部分だけをループします。
Kick Lo、Kick Clickはそれぞれデュレーションにも気を配る。ここでの細かな音作りがkors kサウンドの肝だ。
その時に、アタック感のあるキックのローを削ります。音の長さもけっこう調整して、プチノイズを消すためにフェードアウトを書きます。キックって、ローの成分が音の後ろの方にあるので、音を短くすることで、音が軽くなるんです。音を短くしたキックとメインのキックを合わせることで、アタック感とローの両方があるキックが作れる。このふたつのキックの音量バランスを図る時には、アタック感のあるキックのトラックのフェーダーを一旦全部下げてから好みのレベルに調整するのがポイントです。
キック完成後には、それぞれのバランス調整を行う。こちらは現時点での全画面の様子。
これは定説なんですが、そうすることで音量バランスが取りやすくなります。こうやってふたつのキックを混ぜていくことで、ひとつのキックを作ります。僕が使っているサンプル・パックは音が作り込まれているので1本でも全然問題ないのですが、昔からこういう風にふたつのキックを重ねていますね。昔はハイハットやスネアもキックに混ぜて音をすごく太くしていたんですが、最近は2個だけです。このキックを鳴らしながら、テンポを決めていきます。
ハッピーハードコアって、大体ベースが8分音符のウラに入るので、キックが消えた瞬間にベースのローが入ってくると気持ちいいかなって思って、キックを8分で切るようにしています。これはkors kサウンドの肝です。勢いを出したい時はウラに来るベースのタイミングを少し前に出してあげると、前に引っ張っていくグルーヴ感が出ます。
このあとにハイハットを入れたりして、まずドラムを作っちゃいます。
キックは一定だが、ハイハットのデュレーションによってノリが変わってくるというkors k。1小節ごとに長さを変えて聴き比べてみる。
ドラムができたらベースを入れてコード進行を決めるのですが、イケイケの曲にするのか、浸れる系の曲にするのか、トリッキーなことをするのかは、コード進行を聴いて決めます。ベースもすごく重要ですね。
【TIME 15 : 00〜17:59】
僕、作業はかなり速いんですよ。CUBASEのいいところはショートカットをたくさんアサインできるところ。そこがすごく使い慣れていて。
ダンス・ミュージックや打ち込み系の音楽って、音の鳴るタイミングも大事なんですが、音がどれくらいの長さなのかってこともすごく大事なんです。それによって音の締まりがけっこう変わってくるので。
このあとにハイハットを入れたりして 6 、まずドラムを作っちゃいます。ドラムができたらベースを入れてコード進行を決めるのですが、イケイケの曲にするのか、浸れる系の曲にするのか、トリッキーなことをするのかは、コード進行を聴いて決めます。ベースもすごく重要ですね。
曲のイメージが決まっていない時には、基本のリズム・パターンを作って、そこからインスピレーションを湧かせていって、作業を進めていきます。
これまたCUBASEのいいところなんですが、ひとつのトラックの中に複数のレーンを組めるんです。例えば、8ビートのフレーズも、ウラに入る音だけを2個目のレーンにする。また16ビートで音を埋めると、もっと疾走感が出ます。そこで、ほかのレーンの音量を小さくしてみたり、音を短くすると雰囲気が変わります。MIDIのベロシティみたいなことをオーディオで調整する感じです。これは僕独自のやり方なんじゃないかなって思います。これを元に、ウラ拍にオープン・ハイハットを入れたり、オモテ拍にライド・シンバルなどを入れていきますね。
kors kが多用するというCubaseならではの機能。1トラック中に上から8分オモテ、8分ウラ、16分のハイハットのレーンを3本作った。
サンプル音って、ゼロクロスポイントという波形がちょうどゼロになるところで音を切らないと、"プチ"ってノイズが入っちゃうんですよ。それを解消するためにフェードアウトをかけます。そうすることによって、プチノイズが消えます。
サンプル音には、丁寧にフェードアウトをかける。最初の1小節はフェードアウトあり、次の1小節はフェードアウトなしのもの。
スネアも2拍目と4拍目に入れていくと、よくある感じになります。僕はスネアの"バシ"っていう音に、"パシーン"っていうクラップ(手を叩くような音)を混ぜたりします。すると小気味がいいスナップが利きながらもファットな音ができ上がります。
スネアもキック同様に2種類の音色を混ぜるのがkors k流だ。微妙なデュレーションの違いにも注目。
【TIME 18 : 00〜19:59】
同じように処理したい音はグループにまとめます。
色分けされているトラックごとにグループをまとめている。こちらは"Snare+Clap"グループにSOLID BUS COMPとFabFilterでプロセッシング処 理をしている画面。
そうすることで、コンプレッサーとかもまとめてかけられて、統一感が出せます。音ゲーの曲って、バラバラで出力しないといけないので、マスターでまとめてコンプレッサーをかけることはあんまりしないんです。なるべく1個1個のファイルの中で、音作りをしていくことが多いです。コンプレッサーをかけたりとか、サイド・チェーン・コンプレッサーをかけたりとか。ちなみにサイド・チェーンをかけると、カーブに合わせてボリュームに変化をつけられます。キックにハイハットが貼り付いてきて、キックをより強調させられます。
EQで無駄な帯域をカットしつつ、持ち上げたい帯域をフォーカスしてあげると、コンプがかかりやすくなります。混在感があるけど、整頓されますね。これはプリEQという手法です。これで、基本となるドラム・トラックの打ち込みが終わりました。
ドラムの打ち込みがひと通り終わった画面。P44のkors k制作部屋を見ると分かるように、上のモニターにミキサー類、下のモニターにトラックを配置し、上下のモニターで制作している。トラック名もデフォルトでキチンと書かれており、色分けも美しい。A型だから、という彼らしい丁寧さで1曲1曲作られていく。
ここまで、kors k流のドラム・トラック制作術を紹介してきましたが、『EDPクリエイターズ・ブック』本誌ではさらにベースやメイン・リードなどの制作術を詳しく解説しています。音楽ゲーム・ミュージック制作に興味のあるクリエイターは、ぜひ『EDPクリエイターズ・ブック』をチェックしてみてください!
【HOW TO MAKE? 音ゲー・トラック・メイク術 かめりあ編(第2回)】はこちら。
[kors kプロフィール]
音楽プロデューサー、アーティスト、DJ。16歳でデビュー後、『beatmania』シリーズを中心とした音楽ゲームを始め、さまざまなアーティストへの楽曲提供やリミックスなどを手掛ける。2017年からEDPのプロデューサーにも就任。
品種 | ムック |
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仕様 | B5変形判 / 128ページ |
発売日 | 2017.08.18 |