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【かめりあ編】HOW TO MAKE? 音ゲー・トラック・メイク術(第2回)|『EDPクリエイターズ・ブック』より
Text by リットーミュージック コンテンツ企画部
音ゲーのトラック・メイク法を紹介する本企画の第2弾は、かめりあ編。同じようなプラグインを使いつつも、第1弾のkors kとはまた違う、独自の作曲技法を持っています。ここでは、この夏のコミケでリリースした音源の完成トラックを紐解きながら、かめりあに自身のトラック・メイク術を解説してもらいました。EXIT TUNESのスタッフをして"サイエンティスト"と言わしめる、彼のトラック作りに迫ってみましょう。
ハイハットや金物まわりは
あまりコンプ処理をしない
僕のトラック・メイクは特にテンプレートは作っておらず、まっさらな状態から始まります。今回は『コミックマーケット92(2017年8月)』でリリースするダブステップの新曲を題材にして、完成したプロジェクトからデータを持ってきながら解説を進めます。
DAWはReaperで、年1~2回ヴァージョン・アップしています 。
まずは、キックを置くところからスタートです。自分はキックを置く時にWAVではなく、MIDIで駆動するサンプラーを使います。
今回の曲はダブステップでブレイクス系なので、キックも4つ打ちじゃない位置に置いていきます。いつもReaperのMIDIエディターを使っていますが、サンプラーのデフォルトがC2になっているので、C2にノートを置いていきます。
打ち込むときはMIDIキーボードを使うのは稀で、ほぼ全てマウスで打ち込みます。生楽器で生っぽい雰囲気を出したい時にMIDIキーボードを使うことはありますが、パーカッションやドラムス関係は確実にマウスで入力しますね。自分はキックを最初に読み込んだ段階である程度音を作っておくので、いくつかプラグインを使います。ここではDADALIFE The Sausage Fattenerを使います 。
サンプラー→The Sausage Fattener→EQという順番ですが、サンプル音源がややマキシマイズされていて、こもったキックになりがちなので、ちょっとリリースを切っています。アタックもリミッターに当たった音になっているので、頭のアタックのところを大体6dbぐらい突いています。
30msから20msぐらいのところですね。この値は、どのサンプル音源を使っても大体同じになりますけど、例えばテックダンスを作るなら丸いキックのサウンドが欲しいので、もっと長めの80msから60msぐらいになったりします。大体100ms以内くらいですかね。僕の好みですが、トレンドの音もこういうパキパキした音ですね。だから、このキックの調整は来年には変わっているかもしれません(笑)。今のクラブ・ミュージックはハウスが強いので、どうしてもROLAND TR-909系の柔らかいキックが多くて、その時はもっとやさしい調整になると思います。
The Sausage Fattenerでキックに少し歪みを付加したいので、2~3%くらいファットネスを上げて、先ほどのアタックを突いたところをThe Sausage Fattenerで丸めています。聴感上はアタックのパチパチしたキックになるけど、波形としてはあまり尖らせないようにしています。曲によりけりですが、EQも一端はハイを強めてサブベースの辺りを強めてあげて、迫力を出します。このキックを基本に鳴り物を調節していきます。
次は、大体スネアを作っていきます。スネアもサンプラーから選びますが、自分のサンプラーは読み込んだだけでは音が出ないので、ループ再生して、しばらく音を出しながらやることが多いですね。スネアもThe Sausage FattenerとEQを使って同じような調整をします。以上でスネアとキックができ上がります。
金物(シンバル類)に関しては、ほぼ全部ハイパスをして、低い音域を切っています。それ以外の変わった処理はしていないですね。一時期ドラムが全部でき上がったあとで、まとめてコンプやEQ処理をしていましたが、ハイハットのアタックがつぶれちゃうのが嫌で、どちらかと言うとマスターのマキシマイザーやリミッターに当ててつぶす音が好きだってことに気がついて、ハイハットや金物まわりは、コンプ処理をしないですね。
ちなみに僕はトラック名を付けずに、数字のままで作業しています。
でも、作っている本人は大体分かります......(笑)。1番はキックで、2番はスネア、3番は別展開で使うトラップっぽいキックです(ちょっとリリース感のあるキック)。4番は、トラップのスネアに重ねるパーカッション。ちょっと変わったクラップ音ですね。5番は、トラップ展開で使うハイハットのループ。6番は、そのトラップ展開で使う808系(ROLAND TR-808)のハイハットです。チキチキした音ですね。7番は先ほど作ったスネアになります 。
ダブステップ系の音楽の作り方は
あまり言語化・共有されていない
自分の場合、先にイントロやドロップを作ってしまうことが多くて、この曲の場合はドロップから作りました。ドラムができた段階で先にサイド・チェーンのフォルダ・トラックを作ってしまって、その下にサイド・チェーンしたいものを入れていきます。Nicky Romero KICKSTARTを使っていて、メインのキックとスネアのMIDIシグナルをセンドして、それをトリガーにしてサイド・チェーンを動かしています。
次にドロップ、特にベース・ラインを作っていきます。TheSausage Fattenerはベースにかかわらず、いろんなところで使います。フォルダ・トラックを用意し、Xfer Records OTT、The Sausage Fattener、その上にEQという順番でインサートします。そのフォルダ内にXfer RecordsSERUMがドロップのベース・シンセサイザーとして入っています。
加えてフォルダ外にMIDIシグナルをセンドして、Native Instruments Massiveを動かしています。Massiveはほぼ確実にサポート用でサブベースのような音を鳴らしています。実際にはサブべースではなく、100Hz~300Hzくらいの周波数のみを鳴らしています。200Hz周辺だけの中低域用です。これがあると、ドロップの説得力が増すイメージがあります。これだけだと聴こえにくいんですけど 、メインのベースに重なると響いてきますね。
ドロップのメインのベースは、ほぼ確実にSERUMで作っています。16分音符でベースのドロップの音が鳴っていて、上の金切り音のような周波数の辺りまで全てSERUMです。このダブステップ系の音楽の作り方って、あまり言語化されて共有されていないので、人それぞれベースの作り方も違うのかなって思っています。話は戻りますが、SERUMだけで打ち込んだベースと、センドでMassiveを動かした時の音はかなり違うんですね。SERUMのサブベースは左上のSUBって書いてあるオシレーターなんですが、正弦波か、隣のちょっと丸まった正弦波のどっちかを使うことが多いんです。でも出ている音程って40Hzとかのかなり低いところなので、ヘッドフォンとかイヤフォンで聴いたときにドロップの説得力が減るんです。音が少ないように感じてしまうんですね。ですので、Massiveで200Hz辺りをブーストしてあげて、サブベースの倍音代わりに使ってあげている感じです。そうすると、40Hzぐらいがちょっと聴こえにくいイヤフォンやスピーカーでも、ドロップの音が聴こえやすくなるんですね。
ここまで、かめりあ流のリズム・トラック制作術を紹介してきましたが、『EDPクリエイターズ・ブック』本誌ではさらにイントロ&アウトロ、ドロップのトラックメイク術を詳しく解説しています。音楽ゲーム・ミュージック制作に興味のあるクリエイターは、ぜひ『EDPクリエイターズ・ブック』をチェックしてみてください!
【HOW TO MAKE? 音ゲー・トラック・メイク術 kors k編(第1回)】はこちら。
[かめりあプロフィール]
音楽クリエイター、ボカロP、DJ。電波ソングやポップ・ミュージック、ロック・メタル、EDM、ハードコア、ジャズ、民族音楽、ラテンなどの幅広いジャンルの楽曲を制作。 インスト/歌モノを問わず、クラブ・ミュージック、ボーカロイド楽曲、東方アレンジ、リミックス、ゲームBGMなど、広範囲に手がけている。
品種 | ムック |
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仕様 | B5変形判 / 128ページ |
発売日 | 2017.08.18 |