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2017.09.06

☆Taku Takahashi×banvox 〜ポストEDMサウンドの行方とは...?|サウンド&レコーディング・マガジン2017年10月号より

Text by Tsuji. Taichi, Photo by Hiroki Obara

サウンド&レコーディング・マガジン10月号特集「ポストEDM先端サウンド論考」では、シーンを代表するエキスパート=☆Taku Takahashi(写真左)とbanvox(右)の2人によるスペシャル対談をお届けしている。☆Takuは1999年にm-floのトラック・メイカーとしてメジャー・デビューして以来、DJとしても一線で活躍。クラブやフェスティバルなどの現場で創意工夫あふれるプレイを披露するほか、主宰するインターネット・ラジオ局block.FMで新たな音楽の発掘&紹介にも尽力している。一方、banvoxは2011年にデビューしたプロデューサーで、国内のみならずデヴィッド・ゲッタら海外勢もその手腕を激賞。今年3月にアルバム『Take No Defeat』、4月にシングル『Everlasting』を発表したばかりだが、8月には早くもニュー・アルバム『Roller Coaster』をリリースした。今回は、彼らのポストEDM観と今後のシーン動向について語り尽くしてもらった。

サンプル集の質が上がったから
曲のクオリティについては担保される

ーEDMは昨今、Jポップに取り入れられたりテレビCMに使用されるなど、市民権を得た感があります。

banvox 市民権がどうのという前に、EDMというもののとらえ方は人によってまちまちだと思うんです。特定の音楽ジャンルを指す人も居れば、文化やシーン、はたまたダンス・ミュージックのDJを指す人だって居る。まさに千差万別で、EDMという言葉だけでは意味するところの範囲が広過ぎると思うんです。

☆Taku そもそもEDMの定義?

banvox はい。市民権と言うからには、初めに定義しておかないと何も話せないなと思って。

☆Taku 僕が初めてEDMという言葉を耳にしたのはblock.FMを立ち上げたころ......2011年くらいでした。それ以前にもblock.FMに類することをやっていたんですが、当時はエレクトロを紹介していたんです。今ではEDMのアーティストとして名高いカルヴィン・ハリスやアフロジャックも、もともとはエレクトロを作っていたんですね。やがてダッチ・ハウスなどのサブジャンルが生まれ、DJたちはフェスへ出るようになりました。それまで"DJだけのフェス"というものは無かったから彼らも苦労していて、バンドのような臨場感をいかに出すか試行錯誤の連続だったようです。しかし甲斐あって、DJオンリーのフェスがどんどん成長していった。代表格は"ULTRA"ですね。で、面白いのが、そういうフェスにはエレクトロだけでなくプログレッシブ・ハウスやベース・ミュージックのDJも出ていたこと。僕なりの解釈になりますが、フェスで鳴っている雑多な音楽をくくるために"EDM"という語が生まれたと思うんです。

ー各ジャンルの異種交配も起こったのでしょうか?

☆Taku はい。エレクトロのアーティストがプログレッシブ・ハウスのDJを見て"プログレの盛り上げ方を取り入れよう"などと考えたことから、音が進化したのだと思います。当時のエレクトロと言えば、ビルドアップまでは盛り上がるんだけど、ドロップに入ったら上がらない......というものが多かったんです。クルッカーズなどの曲がそうでしたね。ローがメインのアンサンブルだったので、良いサウンド・システムで聴くと成立したんですが、そこにもうちょっとミッドの音なども加えていこうというのがプログレからの影響なんだと思います。このような経緯でEDMの萌芽があり、フェスもどんどん大きくなっていきました。市民権を得たという表現が正しいのかどうかはさておき、"フェスを中心として規模拡大した"というのが一つの見解じゃないかと思います。

banvox 確かにそうですね。

☆Taku 日本でも"ULTRA music festival"が来たことでEDMという言葉が広がったんじゃないかな。ただ、そのEDMから生まれるものがどんどん変わってきているから、バンボちゃん(banvox)と同じくらい僕も困っているんです。そして人によっては"EDMのDJ"と呼ばれるのを誇りに思っていたり、逆に呼ばれるのを拒むこともあるので、とてもセンシティブな言葉だなと。

ーとは言え、EDMと呼ばれる音楽には共通点がありますよね?

☆Taku 何だろうな......"派手"ってところかな? シンセの音選びにしても、EDMとされる楽曲には派手なものが多い印象です。

banvox ベース・ハウスなどをEDMと言う人も居るので、定義としては"ダンス・ミュージックのフェスで使われる音楽"というのが妥当なのかもしれません。

☆Taku そうなるよね。でもフェスに出ている当事者の身としては、自分がEDMを作っているという意識は無いと思うんですよね。

banvox それは僕も同じです。

☆Taku "自分はEDMのアーティストです"とか"そうじゃないです"といった感覚は、DJからアーティストになった人と、アーティストからDJになった人で、多少のズレがあるのかもしれない。

banvox そうですね。それに両者で音楽の聴き方が違うようにも思う......。

☆Taku 使命がちょっと違うから。

banvox まさにそれです! DJをメインでやっている人はフロアを盛り上げないといけないし、曲を作る場合も"DJプレイで機能するもの"という目線になるだろうから、その点で"自分はEDMを作っている"と言えるんじゃないでしょうか。でもアーティストは、盛り上がる曲以前に自分のやりたい音があるし、それをEDMと定義付ける必要もない。そして現場でも、最終的には好きなようにやると思うんです。

☆Taku ただ、DJメインの人はオーディエンスと接する機会がアーティストよりも多いだろうから、フロアのトレンド感などを素早く曲に反映してきますね。最近は市販のサンプル集がとてもよくできているので、そうしたものを使えば曲のクオリティも担保されるし、まさに楽曲制作の間口が広がったなと。

banvox 最近はプロジェクト・ファイルが売っていたりするので、そういうものを使って曲作りすれば、なおのことクオリティは保証されるでしょうね。

ーそうした状況について、どう考えていますか?

☆Taku 誰もが曲作りを楽しめるのは素晴らしいと思う反面、似たような曲が増えてくる分、面白いものを探すのが大変になってきたなと。

banvox DJ的な見方ですね。僕としては、サンプル集などのクオリティが上がり過ぎるのは微妙......売り物のプロジェクト・ファイルやコンストラクション・キットで曲を作って"banvox超えたった"とか言われると、ちょっとイラっとしますから(笑)。

☆Taku サンプル集などを使うと、オーディエンスに対して機能する曲を作りやすいんですよ。それは悪いことではないんだけど、出来上がったものが音楽として刺激的かと言われれば予定調和になりがちだと思う。

banvox クオリティが高くて盛り上がりもするけど、それが誰の曲なのかあまり覚えられない......そういう状況になりそうですね。

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2017年10月号にて!)


品種雑誌
仕様B5変形判 / 260ページ
発売日2017.08.25