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w-inds.橘慶太【POST EDM Artist Interview】|サウンド&レコーディング・マガジン2017年10月号より
Text by Tsuji. Taichi
橘慶太(写真中央)、千葉涼平(左)、緒方龍一(右)から成るw-inds.。2000年代からの音楽リスナーには現在でも"w-inds.と言えばダンス&ボーカル・ユニット"とイメージしている人が居るかもしれないが、実はその限りではない。何を隠そう自ら先進的なトラックを生み出し、それでパフォーマンスを行うという高度にクリエイティブなユニットへと進化しているのだ。トラック・メイクを担当するのは橘。w-inds.の楽曲を手掛けてきたTINYVOICE PRODUCTIONの今井了介らに手ほどきを受けて曲作りを開始し、今年1月に発売されたトロピカル・テイストのR&B「We Don't Need To Talk Anymore」、そして9月27日にリリースされるフューチャー・ベースライクな「Time Has Gone」(iTunesやSpotifyで先行配信中)の2曲で才能を開花させている。本誌としては、新しく曲作りに挑戦し見事な結果を残している橘のようなクリエイターは、まさに注目すべき存在。先述の2曲の制作を中心に、本人から話を聞いてみよう。
ー2016年10月号のインタビューで"アジア諸国でライブをやるうちにトラックで勝負する必要を感じた"と答えていましたが、それが自身でトラック・メイクを行う原動力になったのですよね。
橘 まさしくその通りなんですが、ほかにもいろいろな動機がありました。中でも大きかったのは、音に関する疑問が自分の中でたくさん出てきたことです。海外のダンス・ミュージックと日本のものを比べたときに"なぜこんなに音が違うんだろう?"と思い始めて周囲の人に聞いて回ったんですが、そのときは誰も教えてくれなかったし、"別に変わらないよ"と言われたこともありました。でも絶対に何かが違うと感じていて、気になって仕方なくなったのが一番の動機かもしれません。
ー研究を重ねた今、海外と日本のサウンドの違いはどこにあると思っていますか?
橘 まずは音数。それから音のレイヤーの仕方が違いますね。シンセ・ベース一つを取っても3〜4本重ねていたりするし、ボトムやミッド、アタックの各レイヤーの作り方が素晴らしいなと。1〜2本で作られたサウンドよりもアタックが効いていて、なおかつベースとして不足している成分が無いように聴こえるんです。空いている帯域があったら、いずれかのレイヤーできっちりと埋めている印象ですね。またサイド・チェイン・コンプとの付き合い方もうまいなと。サイド・チェインをかけると、幾らリリース・タイムを速めても"戻り"がちょっとにぶくなりますよね。だから、そこがスピーディに聴こえるようコンプの後ろにトランジェント・コントロール系のプラグインを挿している......Jack Üのトラックでは、このテクニックが多用されているようです。
ー橘さんがトラック・メイクを手掛けた「We Don't Need To Talk Anymore」は、トロピカル・ハウス・テイストのR&Bという印象です。ドロップのボーカル・リードがキャッチーさを強めていますね。
橘 "ボーカル・ドロップにダンスが付いたら面白いだろう"と思っていたんですよ。DJの方々はドロップでお客さんをあおったりしますが、僕らはダンス・ユニットなのでトラックに振りを付けることができるなと。
ードロップ前半の思い切った音数の少なさは、Jポップとして聴くと衝撃的です。
橘 その"落とす部分"から作ったんです。で、トラック全体が完成して歌入れも終わったときに"Anymore"というフレーズが良いと思ったので、ABLETON LiveのSamplerに入れて鍵盤で"more、more、more"と鳴らしてみたらピンと来た。これでいこう、みたいな感じで。
ーあのボーカル・リードは質感もユニークですね。
橘 ボーカル・リードはいじった方が面白いと思っていて、LiveのOverdriveでひずませたり、WAVES CLA Vocalsをうっすらとかけて空間を作るなどしています。CLA Vocalsは複数のエフェクトを統合したプラグインで、特にリバーブがむちゃくちゃ良いんですよ。最近はVALHALLA DSPのリバーブやLEXICONのモデリングなど奇麗な響きが流行だと思いますが、CLA Vocalsのリバーブはザラついていて空間を埋めやすい。音数が少ないトラックに有用だと思いますね。
(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2017年10月号にて!)
品種 | 雑誌 |
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仕様 | B5変形判 / 260ページ |
発売日 | 2017.08.25 |