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今剛、伝説の1stソロ作『STUDIO CAT』(80年)を語る|ギター・マガジン2017年10月号より
撮影:ほりたよしか 取材・文:近藤正義
ギター・マガジン2017年10月号『徹底検証 ジャパニーズ・フュージョン/AOR』では、"伝説のフュージョンBIG5"と題して、日本のフュージョン界を牽引した5人のギタリストを紹介。高中正義、野呂一生(CASIOPEA 3rd、ISSEI NORO INSPIRITS)、安藤正容(T-SQUARE)、和田アキラ(PRISM)、今剛の5人に最新インタビューを敢行し、当人が80年代に生み出したフュージョン名盤1枚をフォーカスして語り尽くしてもらった。本誌に掲載された記事の中から、日本のスタジオ・ギタリストの頂点こと今剛の最新インタビューをここに公開しよう! 氏が1980年、PARACHUTE在籍時に作り上げた1stソロ・アルバム『STUDIO CAT』について話を聞いた。
シンプルな機材の中で工夫して
オリジナルなサウンドを作るのが
おもしろい時代でしたね。
― ソロ・デビュー作『STUDIO CAT』について詳しく教えて下さい。このアルバムはどのような経緯で生まれたのでしょうか?
ある時、突然"ソロ・アルバムを作ろう"と言われて、"それじゃあ、曲を作らなくちゃ"って、そんなノリでしたよ(笑)。LAでのレコーディングもすでに決まっていたんです。結局、出発までに曲が仕上がらなくて足りなくなっちゃって、飛行機の中でも曲を書いてましたね(笑)。
― 参加するミュージシャンはどのように決めましたか?
まず、それまでも仕事でよく一緒になっていたドラムのロバート・ブリルが日本とアメリカを行ったり来たりしていたので、彼が向こうにいる時がいいなと。ベースのマイク・ダンは日本語もうまいから、一緒に行ってもらえれば言葉の面でも助かるというのがありましたね。マーク・ジョーダンはいろんなレコードで聴いて大好きだったので、コーディネーターに頼んで連絡をとってもらいました。エンジニアのスティーヴ・ミッチェルは以前一緒に仕事をしたことがあったんです。
― マイク・ダンはPARACHUTEでも一緒ですよね。
そうですね。ロバートとマイクは一緒にやり慣れているので、ある程度出てくる音にも予測がついたんです。だからベーシックは、せーので一発録り。レコーディングは全部で1週間で、リズム・トラックは3日くらいで全部録り終えましたね。
― レコーディングを行なったA&Mのスタジオはいかがでしたか?
やっぱりスタジオ自体に歴史を感じましたね。内部の木に音が染み込んでる感じでしたし、スタジオ内のすべてにおいてメインテナンスが行き届いている。プレート・リバーブの鉄板も状態がすこぶる良かったし、良質なマイクを使っていましたね。そういったスタジオ自体の要因もありますけど、LAで録音して良い音になる最大の理由は、やっぱり電源と空気ですね。高い電圧と乾いた空気が機材やギターにとって、ベストな環境なんですよ。
― この時期はもうライン録音でしたか?
ちょうど、アンプ出力からライン出力に変えた頃ですね。最初は単純に、重いアンプを持ち歩くのがイヤだったという理由だったんですけどね(笑)。
― ライン録音のサウンドが好きだったところもあったのでしょうか?
バッキングに関してはそうかもしれないですね。逆に、リードを弾く時はサウンドの奥行き感に気を配っていました。このレコーディングでは、スタジオにあったプライムタイム(ディレイ)がサウンドを広げるために役立ってくれましたね。
― エフェクターはどんなものを使っていましたか?
コンパクト・エフェクターでコンプとオーバードライブがあっただけでしたね。一時期は20Uくらいのラック・システムを使ってましたから、それに比べたら本当にシンプルでしたよ。最近はフラクタルにしたから、外見上はとてもシンプルですけどね。当時はシンプルな機材ながら、その中で工夫して新しいサウンドを作るのがおもしろかった時代でしたね。
― コンパクト中心からラック・システムになっていった理由は?
コンパクト・エフェクターをたくさんつなぐと、やっぱり信号が劣化する。それが嫌だったんですね。あと、結線のトラブルも多くなる。ラックはその点安心感があるし、アンプみたいに置く位置なんかも気にする必要もないですしね。
― 今さんのトーンは個性的かつ凝った音ですが、普段から常に研究しているのですか?
自分で納得がいくサウンドになるように、弾きながらいつもツマミをいじって細かく調整はしているんですが、そうしているうちに自然とああいう音ができあがっちゃう(笑)。一時期はエアー感を取り入れるために、アンプから出力した音をマイクで拾って、それをまたラックに戻してラインでPAに送っていたこともありましたね。そのシステムでレコーディングしていた時期もけっこう長かったですよ。
― 『STUDIO CAT』と言えばやはり「AGATHA」が印象的ですが、あの曲を作った時のエピソードはありますか?
いや~、もう覚えていないですね......。ただ、あの曲を録音した翌日、マーク・ジョーダンが"あのフレーズが頭から離れなくなってしまったじゃないか。どうしてくれるんだよ"と言ってきたのは覚えています(笑)。
― ギター・スタイルのルーツを教えてください。
もともとは、小学校の頃に聴いたベンチャーズ。それから中学生になってレッド・ツェッペリンやディープ・パープルみたいなブリティッシュ・ロックに狂って、高校生でレーナード・スキナードやオールマン・ブラザーズ・バンドとかサザンロックにいったんですよ。それをさらに掘り下げて、カントリーにハマっていくというわけですね。
― カッティングが個性的だと思うのですが、影響を受けた人はいるのですか?
明確に影響を受けた人はいないですね。アース・ウインド&ファイアーみたいなブラック・ミュージック系は聴いてないんですよ。僕のカッティングが個性的だと言われるのは、強くピッキングするからかな? グルーヴ感をしっかり出すためなんですけどね。グルーヴというものは音符の長さで決まる部分が大きいと思っていて、音の短かい長いや休符のタイミングだったりが大事なんです。鍵盤楽器なら普通に弾けば和音を同時に鳴らすことができるけど、ギターだと素早くピッキングしないと6本の弦を同時に鳴らせないじゃないですか。だから僕の演奏を目の前で聴くと、ピッキングしている音が相当うるさいですよ(笑)。昔、ラリー・カールトンをライブ・ハウスで見た時も、同じようにピッキングの音が大きくて驚いたことがありましたけどね。
― ちなみに、弦はどれくらいのゲージを使っていますか?
当時からGHSの弦を使っていて、今もずっと.010~.046のセットですね。.009のセットだと、柔らかすぎて弾いた瞬間にピッチが狂ってしまうんです。半音下げる時は.011からのセットで、アコースティック・ギターは.012~.054のセット。弦はすぐに交換するほうで、レコーディングだと1曲ごとに交換しますね。
― アルバムの話題からは離れますが、一緒に演奏することの多かった松原正樹さんとは、ギター・パートの弾き分けについて細かい打ち合わせはしていましたか?
特に話し合ったことはないですね。"松っつぁんがそう弾くなら俺はこう"、みたいな阿吽の呼吸。たまに松っつぁんが"ここは一緒に合わせようぜ"なんて言ってくれば、"ああ、いいよ"って合わせてみる。それくらいですかね(笑)。
― それでは、『STUDIO CAT』について、改めてご自身の感想を聞かせて下さい。
満足のいくレコーディングでした。学んだことも多くて、これを機会にエンジニアリングに興味を持つこともできましたし。それで2枚目のアルバム(『2nd ALBUM』/09年)は自分でエンジニアもやったりしました。
― このアルバムの録音当時、よく聴いていたのはどんなギタリストですか?
ラリー・カールトン、バジー・フェイトン、ジェイ・グレイドンですね。
― 本作リリース後、次のソロ・アルバムへの構想は持っていましたか?
全然考えなかった。ソロ・アルバムなんて、たまに出せばいいんだと思っていたくらいですからね。そんな感じだから、結局『2nd ALBUM』(2009年)をリリースするまで28年と11ヵ月もかかってしまった(笑)。
― やはり、スタジオの仕事が好きなのですか?
僕はもともとバンドが好きな人間なんで、スタジオ仕事で忙しい合間にPARACHUTEで集まって合宿したりしてましたね。もちろんスタジオもおもしろいですよ。何よりスタジオにいる時間が好きだったし、そこで作り込む作業が好きなんですね。
「AGATHA」も聴ける。ギター・マガジン本誌と連動したAppleMusicのプレイリストが公開中!
ギター・マガジン 2017年10月号
品種 | 雑誌 |
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仕様 | A4変形判 / 254ページ / CD付き |
発売日 | 2017.09.13 |