• トップ
  • PICK UP
  • トラックメイカーIllicit Tsuboi氏が語る、ビート・ミュージックの"大きな音"の正体|サウンド&レコーディング・マガジン2018年4月号より

PICK UP

  • サウンド&レコーディング・マガジン

2018.03.02

トラックメイカーIllicit Tsuboi氏が語る、ビート・ミュージックの"大きな音"の正体|サウンド&レコーディング・マガジン2018年4月号より

Text by Tsuji. Taichi, Photo by cherry chill will

サンレコ2018年4月号の特集「聴感上のレベルを稼ぐテクニック」のイントロダクションとして、まずはどういったサウンドが"大きく聴こえる音もしくは音楽"なのかを考えてみたい。お供していただくのはIllicit Tsuboi氏。国内ヒップホップ・シーンの黎明(れいめい)期にA.K.I. PRODUCTIONSのトラック・メイカーとしてキャリアをスタートさせ、近年はキエるマキュウで活動したり、ビート・ミュージックからロックまで幅広い音楽のエンジニアリングを手掛けるなど、八面六臂(ろっぴ)の活躍を見せる人物だ。それでは早速、氏のコメントを軸に"大きな音"を科学していこう。

Illicit Tsuboi 【Profile】Rinky Dink都立大を拠点とするエンジニア/トラック・メイカー。キエるマキュウとしての活動をはじめ、日本のヒップホップ・シーンに特異な足跡を残す。近年はKANDYTOWN、JJJ、SIMI LAB、KID FRESINOなど新世代のアーティストのミキシングやプロデュースにも数多く携わっている。

作り手に主張があることで
"音楽的に優れた大きい音"ができる

大きく聴こえる音楽。それはどういうものなのだろうか? まずは単刀直入に尋ねてみた。

 「再生機器から大きく出しても小さく出しても、基本的なイメージが変わらない音楽。さらに、音量というよりは"音像"の大きなものが、僕の中では大きく聴こえる音楽であり、大きな音でもあります。また"どんな音楽にしたいのか、何を聴かせたいのか、そのためにどう曲を組み立てるのか"といった考え方も大事で、そこがしっかりしていないと、終始すべての音が前に出てくるような音楽になりがち。仮にその曲の音量が大きかったとしても、僕の中では"大きい音"ではなく"うるさいもの"という認識です。まずは作り手に主張があること。それが"音楽的に優れた大きい音"につながると思います」

 音量や機材といった物理的なものではなく、作り手の主張という精神的な面を語るTsuboi氏。話を聞くにつれ、それがいかに大切であるかを思い知らされた。

 「例えば、ダンゴみたいな音であっても、オケに放り込むことでダンゴではない音を引き立てることができたりします。引き立てられた音は、自然と聴き手の耳に飛び込みますよね? その結果、大きくというか、存在感のあるものに聴こえるはずです。で、なぜそんなことができるのかと言うと、コントラストの付け方について作り手の中に明確な考えがあるからなんです。また、僕の手掛けたギターウルフの音楽などは一曲を通して大音量ですが、作曲やアレンジの面に起伏があるため楽しく聴いていられる。これもバンドのポリシーがしっかりとしているからで、聴かせたいものが定まらず終始すべてのパートを出しているような音楽とは違います。僕はエンジニアとして、"こういうふうにしたい"という主張や狙いの見える音楽がいいと思いますね。そうしたものであれば極論、音質が悪くても大きくできます」

ダイレクト感のある音から始めれば
最終的に音像を大きくできる

 とは言えTsuboi氏は、音そのもののクオリティにも重きを置いている。

 「大きく聴こえる音には"ダイレクト感"がありますよね。音そのものの鮮度が高く、存在感が強くて太いんです。今はDAWの時代で、チャンネルやエフェクトを幾らでも積めるようになったからか、フィルターを通したようなコピー臭い音が増えていると思います。昔のマルチテープには一つ一つの音が太く録られていたので、必要のないものを削っていくという発想で音作りしていましたが、今は小さいものを無理やり引き伸ばすような形になっているのではないでしょうか。それで大きくしたものは、本来の大きさではありませんよね。スターティング・ポイントが小さいと、ゴールを大きくするのにも限界があると思うんです。だから、音量は大きいけれどトータルの音像がある程度までしか行かないのかなと。ジャンルを問わず、各トラックの元音をしっかりと作っておくことが、大きく聴こえる音楽というゴールに向けた、しかるべきプロセスだと思います。裏を返すと、元音がちゃんとしていれば、大きな音像にするのは話が早いというわけです」

 Tsuboi氏は、一つ一つの音のクオリティを高めるべく「録音の際にはプリアンプを吟味したり、入力レベルを最適なものに設定するなどして、きちんと作り込んでいます」と言う。

 「よくミュージシャンから"マスターのマキシマイザーを外した状態で納得のいく音を作るには、どうしたらいいんですか?"と相談されますが、そのときには"良いマイクプリを1台買うといいよ"とアドバイスしています。1台あれば歌録りだけでなく、楽器のリレコーディングなどにも使えますしね。そして何よりサウンド。倍音やひずみが乗ることで良くなるというのもありますが、そもそもそういうマイクプリで作られた音楽を聴いてきたわけなので、曲作りがスムーズになるんです。例えば一つ一つの音に不足を感じてサンプルを大量にレイヤーし、合計100trとかになっていたところが50trで済んだりする。ややもすれば10trになるかもしれない。音そのものだけでなくアレンジも向上するんですね」

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年4月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年4月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 220ページ
発売日2018.2.24