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稲垣潤一インタビュー/「ドラマティック・レイン」の別アレンジの存在と当時のレコーディング事情|『A面に恋をして』より
text by 谷口由記
シングルの表題曲が"A面"と呼ばれた時代に生まれた名曲について、歌い手自らが振り返る書籍『A面に恋をして 名曲誕生ストーリー』から、貴重な証言の数々を抜粋してお届けするインタビュー。第2弾は、稲垣潤一が語る「ドラマティック・レイン」。
稲垣潤一「ドラマティック・レイン」
「ドラマティック・レイン」の別アレンジの存在と当時のレコーディング事情
―昔のインタビューで読んだのですが、そのころは当日スタジオに行くまで、どんなサウンドになっているかわからなかったとか。
そうなんです。そんな時代。今はアレンジャーから、ほどほどにアレンジが施されたデモが送られてきて「ここをちょっと変えてくれる?」とかね、そういうやり取りができますけど。当時は打ち合わせのとき、アレンジャーに僕の声で歌ったデモ・テープとか、作家のデモ・テープを聴いてもらって、簡単なコード譜と一緒にこちらの意向を伝えたら、その次はもうスタジオなんです。そういう意味では、非常に緊張感がありましたね。「せーの」で録るわけですから、1回レコーディングでOKになってから直すのは大変で。ボツになったオケもけっこうありますよ。
―稲垣さんが以前、ツイッターでつぶやいていましたが、「ドラマティック・レイン」には別トラックがあるそうですね。
あります。ほかの曲でもあります。
―それは、多少テイクが違うという程度のものなのか、アレンジ自体が違うものなのか。
アレンジがまったく違うんです。というのも、スタジオで最初に聴いたときから「あれ?」ということがあるんですよ。ディレクターも「ちょっと違うね」って。でも、アレンジが進んじゃっているから変えられない。この場でもう一度アレンジしてくれとは言えませんから。そういうときはもう進めちゃうんですよ。そのアレンジは、船山基紀(「ドラマティック・レイン」の編曲を担当)さんとは別の方ですけど。
―アレンジャーを変えて、ミュージシャンも集め直してまた録るって、すごいですね。
すごいですよね(笑)。ほかの曲でもありましたからね。同じアレンジャーに後日やり直してもらったこともあるし、録ったけどボツにして別のアレンジャーに頼んだ曲もありますし。
―レコーディングしたあとに、シングルから漏れてアルバムに収録というのはありそうですけど。
当時のディレクターが、それまでなかなかヒット曲が出せなくて、僕でダメだったらもう辞めようと思っていたらしいんですよ。ある種、命がけみたいなところがあったから、余計にこだわって。
―めちゃめちゃお金がかかりますね。
かかりますよ。でも、レコード会社の上司にかけあって「もう1回やらせてください」って。そういうことを許してくれる時代だったんですね。
―「ドラマティック・レイン」の別トラックというのは、それはリズムから違う感じだったんですか?
ええ。テンポはそれほど変わらないけど、曲の方向性とアレンジがマッチングしていない......なんて言ったらいいのかな。簡単に言うと、リズムが複雑なんですよ。ストレートじゃない。メロディよりリズムのほうに耳がいっちゃうアレンジだったんですね。この曲の場合は、リズムはキープされていて、そこにメロディが乗っていくようなものを目指していたので。
いながき・じゅんいち●1953年宮城県生まれ。1982年「雨のリグレット」でデビュー。「ドラマティック・レイン」を収録したアルバム『Shylights』が日本レコード大賞ベストアルバム賞を受賞。そのほか、「夏のクラクション」「クリスマスキャロルの頃には」などヒット曲多数。最新アルバムは2017年の『HARVEST』(ユニバーサル ミュージック)。 http://j-inagaki.com/
A面に恋をして 名曲誕生ストーリー
品種 | 書籍 |
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仕様 | 四六判 / 192ページ |
発売日 | 2018.03.16 |