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2018.04.05

五十嵐浩晃インタビュー/大滝詠一『A LONG VACATION』録音秘話|『A面に恋をして』より

text by 谷口由記

シングルの表題曲が"A面"と呼ばれた時代に生まれた名曲について、歌い手自らが振り返る書籍『A面に恋をして 名曲誕生ストーリー』から、貴重な証言の数々を抜粋してお届けするインタビュー。第8弾は、五十嵐浩晃が語る「ペガサスの朝」。

五十嵐浩晃「ペガサスの朝」

月に吠えている男

―最初にお伺いしたいんですが、「月に吠えている男」なんですよね。

 そうなんです(笑)。大滝詠一さんのアルバム『ア・ロング・バケイション』の「FUN×4」ですね。

―知らなかったんです。どうしても確認しておきたくて。

 僕は札幌に住んでいたんですが、信濃町のソニーのスタジオでレコーディングしていた大滝さんが、「五十嵐を呼べ」と。何をするのかわからない状態で、東京へ飛んで、信濃町のスタジオに行ったんですね。そうしたら、大滝さんが一人で待っていて。
「お疲れ様。ちょっとこれを聴いてくれるか」
 って。まだ歌があまり入っていない状態の「FUN×4」を聴かせてもらって。
「これにコーラスを入れてほしいんだ」
「どんなコーラスですか?」
「吠えてくれ」
 と(笑)。で、吠えたんです。すると、金魚鉢の向こう(コントロール・ルーム)で、大滝さんが大笑いしながら、「まだあるかな?」って言うんですよ。

―ほかのバリエーションもほしい、ということですね?

 そうです。だから、次は息を吸って、吠えたんです。そうしたら、めちゃくちゃ笑って「OK!」って。3分くらいで終わったと思うんですよね。

―吠えただけで終わったんですか?

 はい。ただ、僕の人生で、あんなに吠えたことはないですよ。3分間吠えました。裏声というか、吸いながら出して、大滝さんが「もうOK!」と。楽しかった。大滝さんの最高の傑作アルバムに参加できたのは嬉しかったです。

―五十嵐さんの曲でも、大滝さんや杉真理さんがコーラスをやっていますよね。

 「想い出のサマー・ソング」という曲ですね。あと、大滝さんの新宿厚生年金会館コンサートにも呼ばれて歌っているんです。(はっぴいえんどの)「12月の雨の日」とか歌っていますよ。

―大滝さんとのつながりというのは、同じソニーだったからですか?

 僕の銀座の博品館劇場のデビュー・ライヴに、大滝さんが観にきてくれたんです。(鈴木)茂さんがアレンジをしてくれていたので、レコード会社の人から見本盤をもらって聴いて、「こんなに良い茂の仕事は久しぶりだ。これは五十嵐に何かあるんじゃないか」ということで観にきてくれたみたいです。
 北海道のジャガイモを持って、福生の大滝さんの自宅まで行ったこともありました。「このスタジオで録っていたんですか」なんて言いながら、ずっとお話をしてくれて、自宅に泊まって、翌朝、おにぎりをご馳走になって帰ってきました(笑)。

―五十嵐さんはナイアガラ・ファミリーだったんですね。

 大滝さん、大好きだったんです。中学生のころから、はっぴいえんどを聴いていましたからね。松本(隆)さんとも仕事をして、はっぴいえんどのなかでは細野(晴臣)さんだけ接点がなかったんですけど。茂さん、松本さん、大滝さんには、プロになってからも、いろんなことを教えていただいたので、本当に感謝しています。

―予備知識として知っておきたかったので、ありがとうございます。五十嵐さんは「愛は風まかせ」がデビュー・シングルでしたね。

 地元の北海道ではベストテンに入ったんですけど......。

―全国だと197位だったんですよね。

 そうなんです。キャンペーンで地方に行くと、「あれ? レコードも置いてない」という状況で。ソニーのオーディションでデビューが決まったんですけど、そのオーディションは地方ごとに分かれていて、僕の年は、たとえば東北がハウンド・ドッグ、広島は村下孝蔵さんで、ソニーの営業さんも、エリアによって「自分たちの代表は売るけど、北海道のやつまでは......」というのが、最初の年の現実でした。
 かなり自信を持って出した曲だったんですけどね。「こんな良い曲を作っても売れないのか......」というのが実感としてありました。そのときに「ペガサスの朝」も曲としてはあって、プロデューサーが明治チョコレートのCMソングの話を取ってきてくれたんです。
 11月1日に出して、タイアップがついたということで年内には売れると思っていたんです。単純ですよね。そのときは、タモリさんの『オールナイトニッポン』から、文化放送、TBSと、毎日休みなくキャンペーンをして、自分のレギュラー番組を北海道、大阪、東京でやっているという状況でしたけど、なかなか50位前後から動かずに年を越したんです。
 年が明けて、テレビ番組の『ザ・ベストテン』に出たら、それまで50位前後でくすぶっていたのが嘘のように、いきなりジャンプアップしたんです。アマチュアのときから人気があった曲ですし、自分のなかで「これ以上の曲があるのか?」という思いもあったので、危機感というか、「これで売れなかったらどうしよう?」というのはありましたね。

―以前のインタビューに「これでダメなら早くもプロ引退と宣告されて出したシングル」とありましたが。

 そこまで大げさではないですけど(笑)。スタッフもみんな売れるだろうと思っていたし、僕もソニーの朝礼に何回も行って「よろしくお願いします!」ってやっていましたよ。


(続きは書籍『A面に恋をして』にて!)

いがらし・ひろあき●1957年北海道生まれ。1979年、第1回CBS・ソニーSDオーディションに合格。1980年、「愛は風まかせ」でデビュー。「ディープ・パープル」「想い出のサマー・ソング」など、多数の名曲をリリース。現在は札幌を拠点にライヴや楽曲制作のほか、タレントとしても活動。専門学校札幌ビジュアルアーツの名誉学校長も務めている。最新作は、2017年の『ミカン星 ワン』。

五十嵐浩晃 FACEBOOKページ→https://www.facebook.com/hiroaki.igarashi.page/


A面に恋をして 名曲誕生ストーリー

品種書籍
仕様四六判 / 192ページ
発売日2018.03.16