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【Seminar】音量感の新基準!ラウドネスの基本を学ぶ|サウンド&レコーディング・マガジン2018年7月号より
Text by iori matsumoto
特別企画:ラウドネスとは何か?
〜放送基準から学ぶ音のレベル
音楽界の音量基準は、ずっとピークとVUだった。1990年代から続いてきたCDマスタリングの音圧戦争は、いわばピークでリミッティングをして、VUをどこまで上げられるかを競うものだった。一方、テレビ放送をはじめ、さまざまなメディアで近年"ラウドネス"という音量基準が採用され始めている。ラウドネスを基準とすることによって何が変わってきたのか、あるいは変わらないのか? 音楽制作では音量のコントロールをどう考えたら良いのか。それを考えるきっかけとして、ラウドネスを正面から学んでみるのがこの特別企画だ。誌面では、放送業界やMAエンジニア、音楽のミックス・エンジニアなど、さまざまな立場の方によるラウドネスとの付き合い方を紹介しているが、ここではまず、その"ラウドネス"が何なのかを、抜粋してお伝えしていきたい。
ラウドネスの基本を学ぶ
ラウドネスとは、文字通り音量を示す指標である。従来のピーク・メーターやVUメーターとは何が違うのかを、長年TC ELECTRONICのメーター製品に携わってきたビーテックの京田真一氏に伺った。
周波数特性を考慮して人間の聴覚特性を測る
瞬間的な音量を示すピーク・メーターは、その最大値である0dB(デジタル上でのフルビット)を超えると、ひずみとなることを示すのは読者もご存じの通りだろう。ところが、これは実際の音量感と必ずしもつながっていない。瞬間的に0dBピークに達していたとしても、それを人間が大きな音量として知覚できないからだ。そのためプロのエンジニアには、長年使い慣れたVUメーターを手放さないでいる人も多い。VUは300msの平均を示すもので、日本のレコーディング・スタジオのデジタル機器においては、−16dBが0VUと設定されていることが普通だ。しかし、このVUもあくまで電気信号を測定しているのみで、人間の聴覚特性は考慮されていない。
「等ラウドネス曲線という、人間の周波数ごとの聴覚を示すグラフがあります。ラウドネス・メーターは、その逆特性をメーターに取り入れ、周波数を考慮した人間の聴覚特性に近付けたものです。2〜4kHzは感度が高く、低域は逆に感度が低くなっています。この特性は、2つのフィルターを組み合わせたK特性フィルターで得られます」
▲等ラウドネス曲線(ISO226:2003/鈴木-竹島曲線)。1kHz以下は周波数が下がるに従って、大きな音量でないと音として知覚されにくい。また、1〜5kHzは小さな音量でも知覚されやすい
▲K特性フィルター(下記URLの資料を元に作成)。メーター上では低域への感度が低く、高域への感度が高まることになるhttp://www.itu.int/rec/R-REC-BS.1770-4-201510-I/en
そのラウドネス・メーターでは、3種類の表示が用意されている。400msの平均を測るVUに近い感覚のモメンタリー、3秒間の平均を取るショート・ターム、そして対象となる全範囲の平均を見るロング・タームだ。
「これらの設定は国際基準でそうなっているということで、メーターでは"10秒平均のショート・ターム"などを設定できることもあります。ラウドネスはLKFS(Loudness K-weighting relative to Full Scale)もしくはLUFS(Loudness Units relative to Full Scale)という単位で示されますが、これはどちらも同じもの。先にラウドネス規制を始めたEBU(欧州放送連合)ではLUFS、国連の専門機関であるITU(国際電気通信連合)ではLKFSを使っており、実質的にはdBと同じです」
ダイナミック・レンジの大小が音量を左右
このラウドネスが注目され始めたのは、ここ10年ほど。世界的にテレビ放送で、放送局間の音量統一や番組とCMの音量差補正のために、ラウドネスが用いられた。日本でも2012年からこうした基準が導入。詳細は次項に譲るが、大まかにはロング・タームで−24±1LKFSにそろえることになっている。こうした規制があると、従来は大きく感じられたはずのピークを抑えた音が、小さくなるという逆転現象が起こる。
「コンプレッションをかけていくと、ピークがつぶれてゲインが上がる分、全体のラウドネス値が上がっていきます。これにラウドネス規制がかかることで、全体のレベルが下がり、もとより小さく聴こえることになるのです」
(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年7月号にて!)
サウンド&レコーディング・マガジン 2018年7月号
品種 | 雑誌 |
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仕様 | B5変形判 / 212ページ |
発売日 | 2018.5.25 |