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2018.06.12

【Interview】Official髭男dism 藤原聡|キーボード・マガジン2018年SUMMER号より

Text by Nao Yamamoto

Official髭男dismが、初のフル・アルバム『エスカパレード』をリリースした。"ヒゲダン"の愛称を持つ4人組が満を持して放つ1stは、彼らがくくられてきた"ピアノ・ポップ"という枠を超え、さまざまな楽器、サウンドが行き交う実にカラフルな作品となっている。またアルバムと同時にメジャー・デビューとなるシングル「ノーダウト」を発表。こちらは月9ドラマ『コンフィデンスマン JP』の主題歌として注目を集めている。そんなバンドの楽曲の作詞・作曲を一手に担っているのがボーカル&キーボードの藤原聡だ。編曲については、これまで藤原のデモをベースにメンバーで行ってきたが、今作では2曲で共同アレンジャーを迎えている。そのアルバムの制作過程について、藤原にじっくりと語ってもらった。

▲メンバー左から、楢崎誠(b、sax)、松浦匡希(d)、藤原聡(vo、k)、小笹大輔(g)

面白いと思うことを試して具現化できるようになった

─『エスカパレード』は、満を持しての1stフル・アルバムですが、コンセプトはありましたか?

藤原 アルバムの制作に1年かかっているので、やりたいことをしっかりやることだけを考えていました。その時々に閃いた突飛なアイディアや面白いなと思ったものを、躊躇することなくできたと思っています。その結果、エレクトロなものもあれば、今までのOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)らしい楽曲もあったり、楽曲の振り幅の広いアルバムが出来上がりました。でもそれが、自分たちのやりたいことだったんだなと。"自分たちはこういうバンドだ"というリミッターを設けず、編成などの垣根をこえた音作りがコンセプトだったんだと、今は言えると思います。

─これまでのヒゲダンは、ピアノ・ポップ、ピアノ・ロックといったカテゴリーにくくられることが多かったと思うのですが、それを打ち破りたいという意識はあったんですか?

藤原 打ち破りたかったというより、コンピューターを使ってやれることが増えてきたので、面白いと思うことを試して具現化できるようになったという感じです。

─1年という期間をかけて作って行く中で、アルバムでの着地点は見えていたんですか?

藤原 いえ、作りながら収録曲を決めていったので、アルバムの全貌が見えたのは結構ギリギリでしたね。

─先行シングルとなった月9ドラマ『コンフィデンスマン JP』の主題歌「ノーダウト」も、ギリギリに決まったそうですね。

藤原 はい、ギリギリに決まりました。制作が終わったと思ったら......終わってない!って(笑)。もちろん嬉しい話ではあるので、誠心誠意良いものを作るように心がけました。僕は脚本の古沢良太さんが書く世界がすごく好きだったので、まさかこんな形でかかわれることになるとは思っていませんでした。

─ドラマの主題歌として楽曲を作るのは、普段の制作とは違いましたか?

藤原 楽曲提供を一度したことがありましたが、"こういうイメージで"と言われて制作することはあまりなかったかなと。ドラマというエンターテインメントがあって、それを彩る曲を作るというのは初めてだったので、新鮮で刺激的でしたね。"この曲みたいなテンポ"という具体的な要望があった上で、月9のドラマだけど"コンフィデンスマン"という詐欺師の話なので、人間の欲望という闇の部分にフォーカスが当たっていて、でもそれがコメディになっていてゴージャスな感じの内容になっている、と。それに合うものを作ってほしいと言われました。実は打ち合わせに行くまで、どんな内容なのか全く分からなかったんですよ。詐欺の話と聞かされていたので、最初は『クロサギ』みたいなものかと思って、"それ、ヒゲダンで大丈夫なの?!"って(笑)。でもコンセプトを聞いたら、すごく自分たちのやりたいことに近いものがあると思ったんです。

─一曲はどこから作り始めるんですか?

藤原 ほとんどメロディから作っていますね。ループ・ミュージック系の曲だと、何のコードも決まってないところでサビから作るんです。「ノーダウト」「Tell Me Baby」がそうなんですが、ループのフレーズを先に作っておいて、その上でハマるコード進行やメロディを作っていくというやり方ですね。

─藤原さんがデモを作ってメンバーに渡すという形なのでしょうか?

藤原 そうですね、僕がメイン・アレンジャーのような形で作っていきます。ある程度完成させて、その後、それぞれが自分のパートの変えたい部分を変えていくという。最近は、自分たちの担当楽器以外の音も結構入っているので、それらの音の抜き差しなどはみんなで考えたりしますが、基本的には僕がアイディアを出して作っていきます。

─プロデューサー・チームのCHRYSANTHEMUM BRIDGE とトラック・メイカーのMasayoshi Iimoriさんが、それぞれ共同アレンジャーとして、1曲ずつ参加しています。彼らにお願いしようと思ったのは?

藤原 CHRYSANTHEMUM BRIDGEは、SEKAI NO OWARI「RPG」をはじめ、これまでにいろいろな作品を手掛けられていますが、スケールが大きく素晴らしいものを作る方々だと思っていて。今回アレンジャーとして参加してもらった「ESCAPADE」という曲は、デモとしては1年以上前からあったんですが、スケールの大きさが重要になる曲だと思っていたんですね。そのスケール感を出すというのを自分たちでやってこなくて、デモどまりだったんです。それでアルバムを作っていく中で、あるときCHRYSANTHEMUM BRIDGEの保本真吾さんを紹介されたんですが、このタイミングで保本さんに頼めば、曲の広がりを一緒に作れるんじゃないかと思ってお願いしたんです。ティンパニを入れたりとか、メロディの裏で駆け抜けるような細かいディテールの音を、保本さんが提案してくださって。結果として納得のいくものが出来上がったと思っています。Iimoriくんは、僕らのマネージャーがEDMに精通していて、彼のトラックを聴かせてくれたんですが、音の作り方が日本人離れしているなと思って。これもEDM調のデモがあって、やっぱり1年前から何も広げていなくて。そういう曲こそ誰かとやるものだと思ってIimoriくんにお願いしました。こういう音にしたいとか、こういうフレーズにしたいとか相談しながら作っていったんです。そうやってトラックができたことによって、実はメロディが全部変わりました。違う曲になったんです。グッド・メロディであることはもちろん大事ですが、トラックの良さを伝える隙間を作ろうということで、休符の多いメロディにしたんです。

(続きはキーボード・マガジン 2018年7月号 SUMMERにて!)


キーボード・マガジン 2018年7月号 SUMMER

品種雑誌
仕様A4変形判 / 180ページ / CD付き
発売日2018.6.09