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【Interview】堀込高樹×柏井日向〜KIRINJIが現在進行系の音楽を希求した理由
Text by iori matsumoto Photo by Takashi Yashima
2013年から堀込高樹(写真左)を中心としたバンド体制にシフトしたKIRINJI。新体制の初作『11』こそバンド・サウンドを全面に押し出したものだったが、前作『ネオ』からはRHYMESTERをゲストに迎えるなど、生バンドという形式にこだわらず、新たな試みにも挑戦し始めていた。その路線をさらに一歩推し進めたのが、この6月にリリースされた最新作『愛をあるだけ、すべて』と言えるだろう。全編にわたって堀込によるシンセの比重が増え、マシナリーなビートと太い低域のサウンドが印象的。バンドのグルーブや独特のハーモニーなど、従来のKIRINJIらしさとそれらが絡み合うことで、強固なオリジナリティを発揮している。ここでは堀込と、5曲でエンジニアリングを担当した柏井日向氏(写真右)に、氏の新スタジオBigfish Soundsでインタビュー。KIRINJIが現在進行系のサウンドをまとっていく過程を明らかにしていただいた。
キックは音量の大小やバラツキを避けるため
別録りしてトラックに張りました
ー前作『ネオ』のときに、堀込さんはあちこちで"KIRINJIを、現在進行形の音楽と並列にしても遜色の無いサウンドにしたい"ということを語られていました。本作『愛をあるだけ、すべて』も、その延長線にあるのかなと思いました。
堀込 そうですね。『ネオ』ではリード曲の「The Great Journey」の曲調や、RHYMESTERと一緒にやるということ、D.O.I.さんにミックスを依頼するという試みは新しかったんだけど、アンサンブルの成り立ちはそれ以前にやっていたものと近かった。次はもう少しマシン寄りの音像を中心にしたアルバムにしたいなということは考えていたんです。
ーそういう狙いを意図してか、リズム・マシンと生ドラムが共存している曲が多いですね。
堀込 「AIの逃避行」を昨年の夏に録音したのですが、最初普通に演奏して、生だと例えばキックが大きかったり小さかったり、音色にバラツキが出るじゃないですか。それだと現代的な感じがしないと思って、キックやスネアをサンプルに差し替えたんです。その後のレコーディングのときに柏井君のこのスタジオで、その話をして。
柏井 キックだけで録ってトラックに張り、そのあとハイハット+スネア+シンバルを別に録る。ものすごくセパレートした音像になるので、音像の自由度も高くなりますし。ダンスものでは有効な録り方ですよね。
堀込 でも楠(均)さん、演奏しづらそうだったよね。
ー「時間がない」など、ハイハットも、リズム・マシン的な音が鳴っている場合もあります。
堀込 変則的な16ビートをマシンでやって、生ドラムではノーマルなビートにする作り方になっています。テクニカルなことを人間がやると、やっぱりフュージョンっぽい感じになっちゃうので。楠さんは、こういう演奏でもちゃんとグルーブを出してくれるドラマーですし。
ーシンセの分量もすごく増えていますね。
堀込 ほとんどAPPLE Logic Pro Xに付属しているソフト・シンセで、Alchemyが多いですかね。僕はどうしてもビンテージ・シンセ系の音に手が伸びてしまうので、なるべくそれは使わないようにしようと思いました。動きのあるパッドでは、Alchemyのトランスフォーム・パッドを使ったモーフィングをMIDIレコーディングしたり。でも、もしかしたらシンセに聴こえているものでも、田村(玄一)さんのペダル・スチールかもしれない。それが混在しているのが面白いなと。
ー確かに一聴して、田村さんのペダル・スチールだとはっきり分かるパートは少ないですね。
堀込 「新緑の巨人」のサビでは、中低域でEbowを使ってブワーンと弾いていて、それは僕では思いつかなかったこと。ベーシックな上モノに対してのアプローチは田村さんが腐心してくれました。以前はスタジオに集まって、僕が中心になってああしてくれ、こうしてくれとそれぞれのプレイヤーのアビリティに対してアプローチしていましたが、今回は自分ならこうアプローチするよというのを彼らがしてくれました。それが、打ち込みとかエレクトロニクスが多用されているんだけど、不思議なバンド感があるという結果につながっていると思います。
柏井氏のスタジオ、Bigfish Sound(リンク)
(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年8月号にて!)
サウンド&レコーディング・マガジン 2018年8月号
品種 | 雑誌 |
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仕様 | B5変形判 / 244ページ |
発売日 | 2018.6.25 |