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2018.07.10

【Interview】ジム・オルークが語るアブストラクトなアンビエント作

Text by Tsuji. Taichi

作曲家、シンガー、マルチ奏者、エンジニア、プロデューサーなど幾つもの顔を持ち、ロックから現代音楽、劇伴に至るまでさまざまなシーンを股にかける鬼才=ジム・オルーク。1990年代にシカゴ音響派の旗手と目され、2004年にはウィルコのプロデューサーとしてグラミーを受賞。近年は日本を拠点に活動し、くるりやカヒミ・カリィ、石橋英子、前野健太といったアーティストのプロデュースを手掛けながら、自作の発表にも取り組んでいる。この6月にリリースされたアルバム『sleep like it's winter』は、ボーカルを中心とした前作『Simple Songs』(2015年)とは打って変わってアブストラクトなインストゥルメンタル作。全1曲/44分という尺の中で数々の素材が精緻に組み合わさっており、音の空気感やテクスチャー、流れ、移ろいなどをじっくりと味わうことができる。ここ1年半は、東京から居を移して作品制作を行っている彼に、アルバムの制作プロセスについてインタビューを試みた。

アルバム作りを始めるにあたり
"アンビエントの意味"を熟考した

ー東京から移住して以降、何か変化はありましたか?

ジム・オルーク(以下、ジム) なかなか静かなところなので、仕事がはかどります。東京と違って、気を取られるものがあまりありませんから。

ー音楽活動をするなら、都内に居た方が便利なのでは?

ジム 便利かどうかは、私にとってあまり関係ありません。引っ越したのにはいろいろとわけがありますが、仕事のことを考えると中央から少し距離を置いた方がいいと思ったんです。それに、東京には12年間も住んでいたし、私ももう50歳なので十分かなと(笑)。でも決して、東京反対というわけではないんです。

ー『sleep like it's winter』は、東京を離れてから作り始めたのですか?

ジム いえ。作り出したのはおおよそ2年前なので、引っ越しの少し前です。このアルバムのために、本当にいろいろなサウンドを作りました。そしてたくさん捨てました。途中で振り出しに戻るようなこともありましたが、私はいつもそうなんです。リリースするのは1枚のアルバムでも、制作の過程で10〜12枚ほどに相当する音を作ります。ものすごい勢いで作って、大量に捨てるんです(笑)。

ーアルバムは取捨選択の結果というわけですね。ご自宅の制作環境は、どのようになっているのでしょう?

ジム 東京に住んでいたころは、地震が来るまで自分の部屋で録音していましたが、震災の後は建物が少し弱くなったので、近くのビルの一室を借りていたんです。東京を離れて以降はまた自分の部屋でやり始めて、広くなったからドラムも録れそうだと思い、マイクなどを新調しました。でもほかは前とあまり変わらず、OSX 10.6.8のMacとAVID Pro Tools 9、APOGEE EnsembleやUNIVERSAL AUDIO Apollo 16 FireWireといったオーディオ・インターフェース、それからサウンド・デザイン・システムのSYMBOLIC SOUND Kymaが中心です。スピーカーは25年間同じで、B&W Matrix 805を使っています。すごく良い音なんですよ。

ー今作では、アトモスフェリックな音が印象的です。

ジム 制作にあたっては、まずレーベルから"アンビエント"というキーワードを伝えられたんです。でも私はアンビエントのトラックを作ってこなかったので、今の世の中におけるアンビエントの意味、そして自分にとっての意味とは何なのかをよく考えました。アンビエントと言えば、1970年代はエリック・サティのリバイバルでした。家具のように扱われる音楽、という概念ですね。それは政治的な意味合いも強かったわけですが、1980年代からのアンビエントはそういうものとあまり関係がない......メジャー7thのコードが鳴っているだけで、内容の無い音楽になってしまいました。アルバムを作り始める前は、そういうことを考えていたんです。いざ完成すると、その考えが具現化されているかどうかはあまり問題ではありませんが、制作の取っ掛かりとしては常に"考えの種"が必要です。ちなみにアルバムの仕上がりは、往年のアンビエントと何の関係もありませんね。

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年8月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年8月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 244ページ
発売日2018.6.25