内容
トム・ウェイツ等を招聘した
伝説のプロモーターが明かす栄光と苦悩の日々
もし麻田浩という男がいなかったら、日本における"洋楽"の形はちょっと違ったものになっていたかもしれません。
1965年にモダン・フォーク・カルテット(マイク真木も参加)の一員としてアメリカに渡り、現地の音楽を生で体感。トムス・キャビンという呼び屋を立ち上げ、自分が観たい!と思う、最先端のミュージシャンを招聘しまくります。しかも、金儲けだけではなく「小さな場所で、良い音で」をモットーに。
彼によって招聘されたミュージシャンは、77年のトム・ウェイツ初来日、78年のエルヴィス・コステロ、79年のトーキング・ヘッズなど、名前を上げれば枚挙に暇がありません。
その後、麻田氏は、フジロックを主催するスマッシュの創設に携わっただけでなく、アメリカ・オースティンで行われる一大イベントSXSWの日本のレップを務め、逆に日本のミュージシャンを国外に紹介するような活動も積極的に行なっています。トムスキャビンが招聘したエイモス・ギャレット、マーク・リボー、ラモーンズ、ストラングラーズ、デヴィッド・ブロムバーグ、レヴォン・ヘルム、レオン・レッドヴォーンなどの演奏は、良い音楽を追い求める洋楽ファンを喜ばせ、未知なる扉を開いてくれました。本書は、そんな伝説のプロモーターの半生を記した自叙伝です。
【CONTENTS】
1.イグニッション 点火
はじまりはFEN/洋楽のレコードを集めだす/中学生で映画デビュー/フォークの衝撃/レコードはハンター、洋書はイエナ/広がるフォークの輪/カレッジ・コンサート/MFQで全米ツアー/ラジオ番組のレギュラーに
2.オン・ザ・ロード 途上
いきなり手術/アッシュ・グローブでNLCRを観る/シカゴでブルースを/ふたたび病魔に/ヤマハのギターがマーティンに/大きかったニューポートの経験/憧れのニューヨーク/河内山さんのこと/都レストランで働く/グリニッジ・ビレッジの日々/ついにディランを観る
3.エントランス トムスへの道
黒澤明の助監督に/テレビドラマに出演/ジャクソン・ブラウンと出会う/ナッシュビルでレコーディング/ギタリストの系譜/ツアマネの仕事を始める/自分でやるしかない!
4.クリアアップ トムス始動
西海岸で観たDGQの衝撃/「ベアバック」編集部に居候/ついに実現した初のコンサート/トムス・キャビンの由来/幻となったセカンド・ソロ/76年のトムス/地方公演のシステムを確立/酔いどれトムの真実/77年のトムス/ホームグラウンドとなった久保講堂/トムスのプログラム
5.バイパス ローリング・ココナツ・レビュー
反捕鯨のコンサートをやりたい/三日間にわたる大イベントに/祭りの後始末/ようやくCD化されるライブ音源
6.クラッシュ 倒産
78年前半のトムス/パンクの洗礼/コステロ狂騒曲/不評に終わったジェイムス・カー/日本初のオール・スタンディング/大人の雰囲気だったトーキング・ヘッズ/パンクを一手に引き受けて/パンク以外のアーティストたち/フュージョンやラテンも手掛ける/「トムス倒産か?」/最後の花火となったラモーンズ/やりたかったライ・クーダー/トムス総括
7.リスタート 新たな才能の発掘
めんたいロックの名付け親/スマッシュを立ち上げる/クスリを絶ったドクター・ジョン/新機軸へのアプローチ/SIONを見出す/そしてレーベル運営も/ピチカート・ファイヴを売り込め/ニューヨークからブレイク/日米のアーティストの仲を取り持つ/ラウンジ・リザーズとのセッション/SXSWでジャパン・ナイト/世界を駆けるガールズ・バンド/音楽産業の変化に対応せよ
8.ロング・ドライブ 聴かずに死ねるか!
「聴かずに死ねるか」で復活/本格始動となった2001年/その後のトムス/豪雨のハイドパーク/高田渡の思い出/二年で終わったハイドパーク/もっと新しい音楽を/これからはアジアに目を向けるべし
◎招聘リスト
◎歴代のプログラム/Tシャツ/チケットのギャラリー
◎伊藤あしゅら紅丸の証言
◎対談:麻田浩×ピーター・バラカン
■本書に登場する著名人(五十音順・敬称略)
アサイラム・ストリート・スパンカーズ/エイモス・ギャレット/エリック・アンダーセン/エルヴィス・コステロ/オーティス・クレイ/ガイ・クラーク/カントリー・ガゼット/キャリキシコ/グラハム・パーカー/ザ・バンド/ジェイムズ・カー/ジェームズ・ブラウン/ジェシ・コリン・ヤング/ジェフ・マルダー/ジム・クエスキン/ジャクソン・ブラウン/ジョン・ゾーン/ジョン・リー・フッカー/ジョン・ルーリー/シル・ジョンソン/ストラングラーズ/ゾンビーズ/ダン・ヒックス/トム・ウェイツ/デビッド・グリスマン/デビッド・ブロンバーグ/トーキング・ヘッズ/ドクター・ジョン/ドック・ワトソン/トニー・ジョー・ホワイト/ドニー・フリッツ/トニー・ライス/ニュー・グラス・リバイバル/ハッピー・トラウム/ピート・シーガー/ビル・キース/フライング・ブリトー・ブラザーズ/ブルース・コバーン/マーク・リボー/マイク・シーガー/マッド・エイカーズ/マリア・マルダー/レヴォン・ヘルム/ライ・クーダー/ラウンジ・リザーズ/ラモーンズ/ラリー・カールトン/レオン・レッドボーン/ローリー・アンダーソン/ロニー・マック/ロバート・クレイ/O.V.ライト/The B-52's/J.J.ケール
有田純弘/石川鷹彦/岩沢幸矢/笛吹利明/遠藤賢司/岡田徹/押尾光一郎/久保田麻琴/駒沢裕城/黒澤明/黒澤久雄/洪栄龍/小坂忠/後藤次利/小室等/コレクターズ/ザ・ルースターズ/篠ひろ子/島村英二/ジミー時田/少年ナイフ/鈴木茂/高田漣/高田渡/田島貴男/立花ハジメ/近田春夫/徳武弘文/中村とうよう/ナンバーガール/林立夫/ピチカート・ファイヴ/ペティブーカ/ボアダムス/細野晴臣/マイク真木/松任谷正隆/森山良子/ロリータ18号/安田裕美/吉川忠英/CHAI/PUFFY/SION
編集担当より一言
表舞台に立つミュージシャンの伝記も楽しいですが、その影で孤軍奮闘する人々の裏物語にも惹かれるものがあります。麻田さんは、呼び屋として音楽に人生を捧げ、長年にわたって道なき道を自力で切り開いてきました。麻田さんの仕事/偉業を少しだけ記してみると、こんな感じです。
1.学生時代にマイク真木らと共に全米ツアーを敢行。
2.1968年にカーネギー・ホールで生ディランを目撃。
3.黒澤明の映画『トラ・トラ・トラ!』の助監督に。
4.バンド・スタイルでは日本人初となるナッシュビル録音を行なう。
5.後ろ盾なしに小さな呼び屋トムス・キャビンを設立。
6.東名阪だけではなく、地方公演システムを確立。
7.若き日のトム・ウェイツを招聘。
8.日米を巻き込んだ大型ベネフィット・コンサートを開催。
9.めんたいロックの名付け親となる。
10.フジロックでお馴染みのスマッシュを立ち上げる。
11.ピチカート・ファイヴなどを米国でヒットさせる。
12.SXSWの日本の代表を務める。
御年74歳になってもそのバイタリティは衰えることがなく、次は中国を始めとするアジア・マーケットへの進出を画策していることを嬉々として語ります。僕自身、エイモス・ギャレットやマーク・リボーといった個性的なギタリストを生で目撃して以来、新しいギター観が芽生えたのですが、彼らもトムス・キャビンが招聘したアーティストでした。同じように知らず知らずにうちに麻田さんから影響を受けている日本の洋楽ファンは少なくないと思います。そんな活力に満ちた音楽人の自叙伝、ぜひ多くの方に読んで頂ければ嬉しいです。
(第3編集統轄部/坂口和樹)