(株)バグ・コーポレーション代表取締役/『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員
作曲家になるためのノウハウを多数網羅した書籍『プロ直伝! 職業作曲家への道』は、第一線で音楽を作っているプロたちによる共著だ。執筆に加え、全体の監修も務めた山口哲一氏に、本書が出来上がるまでの背景を尋ねた。
※このインタビューは2013年6月に行われました。
●新刊『プロ直伝! 職業作曲家への道』は、今年(2013年)の1月より東京コンテンツプロデューサーズ・ラボで開始された作曲家養成講座“山口ゼミ?プロ作曲家になる方法?”の内容を土台としているそうですね。まずそのゼミを始めた動機からお話しいただけますか。
○後輩社長からの依頼というのが直接的なきっかけでした。ただ、巻末の対談でも語りましたが、アーティストとしてのメジャーデビューからプロの作曲家、サウンドプロデューサーへという"従来の道"が細まっているという危機感がベースにありました。
これまで、新人作曲家の育成は、全部、自腹でやってきたので、教えることでお金をいただくのには抵抗感もあったのですが、やるなら徹底的に“プロ仕様”でやろうかと、腹をくくって始めました。
●ゼミの第1期(1月?2月)と第2期(4月?5月)を終えての感想は? 受講者の様子や、どのような進路指導を行なったのかについても教えてください。
○これまでの経験から、育成には自信があったのですが、正直、予想以上の手応えがありました。受講生のやる気と、成長の早さには驚いています。
始める前は、参加者の1?2割は形になると思っていたのですが、おそらく、今秋には、プロとしてやっていける可能性がある、コンペで通る可能性があるというレベルに十数人が達していると思います。第1期が23人で始まったので、10ヶ月間で、5割以上というのは、すごい割合だと思います。伸びるクリエイターを見ているのは、こちらもワクワクしますね。その手応えがあったので、書籍化にも勢いが付きました。
進路指導は、マネージメントと同感覚でリアルにシビアにやっています。その人ごとに、強みと弱点と、課題と可能性を正直に話し、個人的な事情も聞いて、具体的にどうするかというアドバイスもします。必要に応じて、業界への紹介、橋渡しもやります。
●それでは、『プロ直伝! 職業作曲家への道』の内容について伺っていきたいと思います。CHAPTER1“作曲家が知っておくべきこと”の第1節“作曲家よ、大志を抱け!”では、“音楽業界は斜陽産業”などと言われているもののJASRACから作曲家に支払われる金額はここ10年ほど大きな変化はないことや、作曲家の活躍の場はJ-POP以外にもゲーム、劇伴、CMなどたくさんある、などといった明るい話題で始まっていますね。本書の冒頭にこうした話を持ってきた理由は?
○ネットだけの情報だと、音楽ビジネスの未来が暗いという意見をたくさん見るので、才能と意欲のある人が音楽の仕事を選んでほしいなという思いがあります。2010年代に日本人であることの優位性を活かして、世界で活躍するような音楽家がたくさん出てきてほしいです。
●CHAPTER1の中の“作曲家が知っておくべき6つの常識”では、職業音楽家の種類の説明から始まり、職業作曲家になるためのきっかけ作り、コンペでの注意点や心構え、さらに音楽界で長く活躍を続けるためのヒントまでが書かれています。“長く続ける”ところまでアドバイスするのは、やはり長年のアーティストマネージメントの経験があるからでしょうか?
○そうですね。アーティストマネージメントというのは、契約自体は1年ごとであったとしても、そのアーティストの10年後の幸せを考えるという性癖がある職業なんですよ。10年後に素晴らしいアーテイストで、経済的にも豊かであるために、今、どうすべきかという考え方をベースにしていますね。
●話が少しそれますが、山口さんと最もつきあいが長く深いアーティストというと?
○SIONや、本書にも登場したこだまさおりは15年になりますね。ジャズの世界ですが、佐山雅弘さんや村上ポンタ秀一さんとも10年以上、お仕事してました。マネージメントという形のかかわりでなくても、一度、お仕事した方とは、長くお付き合いするケースが多いですね。本書は、その集大成みたいにもなっている気がして、個人的には感無量です。
●続くCHAPTER2からCHAPTER6までは、コンペ、J-POP、アニメソング、劇伴、ゲーム音楽といった分野の専門家たちが執筆しています。この執筆陣(※1)は“山口ゼミ”の講師陣と重なるようですが、人選はどのように行なったのですか?
○今、第一線で音楽を作っている人という基準です。既存の音楽スクールを見ていると、“元・現役”という感じの方が教えていることが多いようなので、自分が育てる側にかかわるとしたら、今、実際にヒットを作ろうと取り組んでいる方のリアルなバイブレーションを体験してもらいたいという思いがありました。本当の一流は、なかなか匠の技を言葉にしてくれないのですが、僕が横から突っ込みを入れることでエッセンスが伝えられると良いなと思っています。 それが一番、刺激になる気がしています。
※1:執筆陣=伊藤涼、浅田祐介、佐藤純之介(アイウィル)、吉田雅裕(フジパシフィック音楽出版)、井筒昭雄、崎元 仁(ベイシスケイプ)[順不同/敬称略]
●では、CREATOR INTERVIEWに登場する作家陣(※2)は、どのように選んだのでしょうか?
○同じですね。第一線、現場感ということです。あと、久しぶりに会って、話をしたいという気分はあったかもしれません(笑)。
※2:作家陣=玉井健二(アゲハスプリングス)、☆Taku Takahashi(m-flo/block.fm)、島野聡、Ken Arai、とく/toku(GARNiDELiA)、こだまさおり[順不同/敬称略]
●CHAPTER7“職業作曲家の心得”で山口さんが述べている計13個の心得(下の表)は、そのまま山口さんご自身の仕事観や人生観であるようにも思われます。山口ゼミでもこの“心得”が配られるそうですが、これはゼミのためにまとめたものなのでしょうか? それとも以前から温めていたものでしょうか?
日常篇 |
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人生篇 |
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技術篇 |
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処世術篇 |
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○“山口ゼミ”をやることになって、まとめたものです。でも、すぐ出てきたので、経験からの抽出なんだと思います。若い頃から一流の音楽家とお仕事をさせていただいた貴重な経験と、自分が育てた新人に対して、きちんとした人間教育ができなかったという反省があって、その2つがベースになっている気がします。
内容は、真っ当だと思うので、異論があったら、ぜひ伺いたいのですが(笑)、音楽業界で仕事している方なら、皆さんご存じなことを、言葉にまとめただけではないかなとも思っています。もっと良い表現の仕方はあると思うので、“山口ゼミ”を続ける中で、“バージョンアップ”していきたいと思っています。早速、☆Taku Takahashiさんから、「これからの作曲家は、英語ができなきゃ駄目でしょ?」というアドバイスをもらって、抜けていたなと思いました。追加するつもりです。
●本書を読んで「自分もコンペ(※3)に参加したい」と考える作曲家の卵は多いと思います。しかし今のところコンペにつながるコネクションも情報も持たない人は、何から始めるべきでしょうか?
○“山口ゼミ”を受講してください(笑)。というのは冗談としても、信頼できるスタッフと出会うことは簡単ではないですが、行動しなければ何も始まりませんので、ともかく、自信のあるデモを作って、いろんな人に聴いてもらうことでしょうね。
※3:コンペ=competitionの略。 たくさんの作家から楽曲を集めて、曲を選ぶこと。
●『プロ直伝! 職業作曲家への道』を購入した人への特典として、読者が作った音源を山口さんご自身が試聴してメールでアドバイスを行なう“デモ音源クリニック”が用意されていますね。こうした読者サービスを行なう理由は?
○購入してくれた方が一番喜ぶ特典かなと。それに、書籍の内容がどんな風に伝わったかを知りたいからですね。新人作曲家のデモを集めること自体には苦労していないので、申し訳ない言い方ですが、正直、たくさん聴きたいというわけではないです。全部聴いて、答える労力は結構大変なのですが、デモを聴きながら、アンケート内容を読めば、この本で僕が伝えたかったことが届いたか分かる気がしています。それを今後に活かしたいなと。
それから、本業で普段からやっていることですが、もちろん、奇跡のような天才に出会うことも、0.1%くらい期待しています。
●山口さんがおっしゃる通り、今の日本で活躍している作曲家やプロデューサーは、最初はバンドマンやシンガーソングライターなどのアーティストとしてメジャーデビューし、その後、音楽業界の中で地歩を固めていった人が多いように思われます。では今後の日本において、作曲家になるための道筋はどう変わっていくと思われますか?
○“メジャーデビュー”のあり方は変わっていくと思いますが、プロの作曲家になる道筋の基本は変わらない気がしています。今は過渡期なので、才能のある若者に選択肢を増やすべきかなと思い“山口ゼミ”を始めたのは、前述の通りです。
●どうもありがとうございました。
山口哲一 プロフィール
1964年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。SION、村上“ポンタ”秀一などの実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。2011年頃から著作活動も始める。2011年4月に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)刊行。2012年9月に『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(共著/小社)刊行。
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