『最先端の作曲法 コーライティングの教科書』をコーライティング(共著)した伊藤涼さんと山口哲一さん。最先端であり、最強の作曲法だというコーライティングはまた、これからプロのクリエイターとして活動していくには必須のものでもあるようだ。欧米では既に一般的だというこのコーライティングについて、熱く語っていただいた。なぜ今コーライティングなのか、乗り遅れる前にぜひチェックしていただきたい。
●山口 自分たちで言うのは恥ずかしけれど、コーライティングの考え方から方法まで書いた本って、おそらく世界初ですよね?
○伊藤 世界は広いので「たぶん」としか言いようがないですけど、少なくとも知る限りでは“世界初”ですね。むしろ、コーライティングの考え方から方法まで書いた本を知っているって人がいたらぜひ、教えてほしです。今回、あえて“共作”と言わずに、“コーライティング”としたのは、欧米の作曲方法から学ぶという意味があります。まだ日本では一般的ではないコーライティングですが、これからブームのように広がっていくでしょう。
●山口 欧米では、プロの作曲家はコーライティングが一般的ですよね。ニュージャージーでレコーディングした時に仕事をしたアメリカの黒人ミュージシャン達は、ファミリーみたいになっていて、曲をつくるって言うと、誰かの家に集まってやっていて、なるほどと思いました。伊藤さんのコーライティング体験はいつ頃ですか?
○伊藤 ジャニーズ・エイタテイメント時代からスウェーデンの音楽出版社と仕事をすることが多かったのですが、そのときにコーライティングとの出逢いがありました。当時からスウェーデン人と日本人作曲家のコーライティングを実践してきて、修二と彰の『青春アミーゴ』やテゴマスの『ミソスープ』などのヒット曲を作れたことで、コーライティングに大きな可能性を感じるようになりました。その後、フリーになってからもスウェーデンをはじめ、イギリス、ドイツ、フランス、デンマークなどの国でコーライティングを経験しました。欧米の作曲家の音楽に対する、またビジネスに対するマインドが、日本の作曲家とは全然違う。とにかくインディペンデントなんです。これだけグローバル化した時代だからこそ、日本の作曲家も彼らのマインドを学ぶべきだし、コーライティングこそがキーになると考えています。
●山口 日本人作曲家だと、ヒロイズムがトップランナーですよね?この本では、1章を彼に託して、コーライティングを自分の創作活動の中心にするようになった経緯や、LAに定期的に通って、コーライティングしている様子を書いてもらいました。
○伊藤 はい。彼の場合はヨーロッパから入って、アメリカへ。良い出逢いとコーライトセッションを繰り返して、その場に行かないと見えないことがいろいろと見えてきたんじゃないかな。最近、彼がLAから帰ってくるたびにいろんな土産話を聞くとワクワクしますよ。そろそろ何かが起こりそうな予感がしますね。
●山口 彼がパイオニアとして道を切り拓けば、日本人音楽家には、全世界ヒット曲を出すようなポテンシャルがあると思います。日本から大リーガーがたくさん輩出したのと似ているなと思って、僕は、「作曲家界の野茂英雄」と呼んでいます。
○伊藤 それ、いいですよね(笑)。ヒロイズムが作曲家界の野茂英雄になれば、次に続く松坂やダルビッシュも現れる。そういう意味では、まずは野茂が登場しないと話にならないですからね。今回の本の中では、ひとつの企画“海外コーライティング体験記”として、コーライティングファーム(CWF)のキャプテンことhanawayaにロンドンに行ってきてもらいました。3日間のコーライティングセッションを通じて彼が気づいたこと、学んだこと、成長したこと等が書かれています。最初は、山口さんと冗談半分で話していた企画でしたが、実際やってみたらかなり面白い内容になりましたね。それこそ、ヒロイズムを追いかけてダルビッシュになりたいクリエイターにとっては最高に興味深いはず。
●山口 そうですね。キティ伊豆スタジオに協力してもらって僕らがやった“Izu Co-Writing Camp”も刺激的でしたね。本書では、2回目の伊豆キャンプの模様を4期生の小谷(哲典)のレポートで紹介しています。土曜日の朝11時にチーム分けが決まり、翌日曜日の18時の試聴会まで、31時間で0からデモを完成させるスリルと高揚が分かってもらえるかなと思います。31時間のタイムテーブルを3組分載せていますが、チームによって全然やり方が違うんだなと、僕も面白かったです。ちなみにこれまではCWFメンバー+親しいゲスト作曲家でやってきましたが、オープンな形のコーライティングキャンプも企画しているところです。
●山口 伊藤さんは、日本にもコーライティングのブームが来ると予言していますね。
○伊藤 絶対に来ます。だってもう日本国内でもコーライティングの魅力に取り憑かれた人たちを何人も知っていますよ。この本でインタビューをした、岡嶋かな多もその1人だと思うけど、一度ハマったらもうやめられない。彼女はスウェーデンに移住しちゃうくらいですからね。それに現代の音楽制作において、コーライティングっていろんな意味で最強なんですよ。既にコーライティングの魅力を知ってる彼らも、本当はまだ内緒にしておきたいくらいだと思いますね。まぁ残念ながら、この本で世に知れ渡ってしまいますが(笑)。とはいっても、遅かれ早かれコーライティングブームは来る、この本がちょっとしたトリガーになって、その到来をスムーズに迎え入れるだけですよ。
●山口 これからの作曲家は、コーライティングのノウハウを身に付けるのはマストですよね。
○伊藤 はい、プロを本気で目指すなら絶対に身に付けないと、プロになれないどころか時代の波にすら乗り遅れる。音楽で食っていくことが簡単なことじゃない、そんなことは今さら語ることではないんだけど、頑張るのだって当たり前のこと。DTMでデモ音源つくって、作家事務所にそれ送って、やるべきことはやったと自分を信じこませて、世界はまだ自分の才能に気づかない……と現実逃避する。そんなことより目の前にある、まだ小さな波にしっかりと乗って、これから大きくなる波を味方に付けないと。スマートに、そしてクレバーに。とにかく独りで悩んでないで、まずは“山口ゼミ”に来い!って感じですね。
●山口 その通りです(笑)。音楽業界の皆さんにもCWFが注目してもらえるようになっているのを最近、実感しますね。また、コーライティングがムーブメントとして広がっていくには、アマチュアの趣味の作曲にも取り入れてほしいです。そういう意味で、日本版SoundCloudとでも言える作曲家SNSクレオフーガが、コーライティング促進のための施策をしてくれるのは心強いです。書籍発売記念で開催したファーストデモコンテストには700曲以上も集まって、CWFメンバーが選考に悩んでいました。クレオフーガ会員同士のコーライティングコンテストも始まって、イベントもやるので、興味のある人は、遊びに来てほしいです。
○伊藤 そうですね。DAWが発達して1人で何でもできるっていう風にみんな考えるんですけど、実は音楽の現場って人とのつながりで成り立っていて、いまそれが重要度を増しているように感じます。DTMは誰でもできる!ってほどではないかもしれないけど、DTMがそんなにスペシャルなことじゃなくなった。DAW女(ダウジョ)も出てきたし、ヘタしたら小学生だって使えるわけで。まさにクレオフーガの会員たちがそうだと思うんだけど、DAWで“遊ぶ”時代になってきている。これから数年はコーライティングがスペシャルで、コーライティングからスターが現れて、彼らが音楽エンターテイメントの中心に立つようになるんだと思う。それは70年代のロックスターのようかもしれないし、90年代の音楽プロデューサーのようかもしれないし、ボカロPのようなものかもしれない。どんなスター選手が生まれるかは、時代が決めてくれるだろうけど。ただ、そのスタートラインに立つというか、切符を手にするというか、それがコーライティングという手法を身に付けること。まずはこの本を読んで、その時代の到来を感じてほしい!!
<<関連イベントのお知らせ>>
コーライティングDAY
http://eventregist.com/e/ZugoHA5hZgMR
■日時:2015年4月25日(土)13時~
■参加費:無料
■会場:東京コンテンツプロデューサーズ・ラボ
(東京アニメーションカレッジ専門学校2F)
■住所:東京都 新宿区 下落合1-1-8
■アクセス:
・JR山手線・西武新宿線「高田馬場」駅早稲田口より徒歩5分
・東京メトロ東西線「高田馬場」駅1番出口または2番出口より徒歩5分
山口哲一 プロフィール
音楽プロデューサー、コンテンツビジネス・エバンジェリスト、(株)バグ・コーポレーション代表取締役、『デジタルコンテンツ白書』(経済産業省監修)編集委員。
国際基督教大(ICU)高校卒。早稲田大学在学中から音楽のプロデュースに関わり、中退。1989年、株式会社バグ・コーポレーションを設立。音楽プロデューサーとして「SION」「村上"ポンタ"秀一」のマネージメントや、「東京エスムジカ」「ピストルバルブ」「Sweet Vacation」などの個性的なアーティストをプロデュースする一方、音楽ビジネスとITに関する実践的な研究を行っている。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバルな視点、異業種コラボレーションを掲げている。
アーティストマネージメントからITビジネスに専門領域を広げ、2011年から著作活動も始める。エンタメ系スタートアップを対象としたアワード「START ME UP AWARDS」をオーガナイズ。プロ作曲家育成「山口ゼミ」や「ニューミドルマン養成講座」を主宰するなど次世代の育成にも精力的に取り組んでいる。
経済産業省監修『デジタルコンテンツ白書2011 / 2012 / 2013 / 2014』の音楽部分を執筆。著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)、『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(リットーミュージック)、 『プロ直伝! 職業作曲家への道』(リットーミュージック)、『世界を変える80年代生まれの起業家 ~起業という選択~ 』(SPACE SHOWER BOOks)、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(リットーミュージック)、『とびきり愛される女性になる。~恋愛ソングから学ぶ魔法のフレーズ~』(ローソンHMVエンタテイメント)がある。
伊藤 涼 プロフィール
音楽プロデューサー、(株)マゴノダイマデ・プロダクション代表取締役。
Berklee College of Music卒業。2001年にJohnny's Entertainmentに入社し、近藤真彦・少年隊・KinKiKidsのディレクターを務め、2004年にはNEWSのプロデューサーに着任。修二と彰、山下智久のソロ、テゴマスの海外デビューなども手掛ける。 2009年に株式会社マゴノダイマデ・プロダクションを設立後は、作詞研究室リリックラボなどの音楽に関する企画運営をしながらフリーのプロデューサー/作家としても活動。山口ゼミの副塾長、Co-Writing Farm(CWF)のヘッドディレクターをつとめる。作詞アナリスト、フードミュージックプロデューサーとしても活躍。
著書に『作詞力 ウケル・イケテル・カシカケル』(リットーミュージック) 、『とびきり愛される女性になる。~恋愛ソングから学ぶ魔法のフレーズ~』(ローソンHMVエンタテイメント)がある。
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